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幕間:来訪者(前編)

「……うーん……」


 冒険者ギルド本部、執務室で書類と向かい合いながら唸るエーナの前には、とある事件の資料が並べられていた。

 それは組織『深淵の檻』討伐の一件に関するもの。戦いの経過とその終わり方を含め一切の報告が来ていた。さらに言えばそこに加わったディアスの手紙も。


「なんというか……」


 と、ため息をつきながらエーナは呟く。


「やっていることが何も変わらない……」

「それがディアスさんの性分なのでしょう」


 苦笑混じりに告げたのは傍らにいるノナ。


「それに、彼がいたからこそ新たな事実も判明した」

「そうだね……ディアスが送ってくれた手紙の内容は重要な情報だと思う。ただこの場合――」

「きっと他ならぬディアスさんも考えているでしょう……国の上層部、そこに反魔王同盟に関わる魔族と手を結ぶ人間がいる」


 エーナはその言葉に重々しく頷いた。


「頭が痛くなるような話ばかり舞い込んでくる……」

「もしかすると、私達が考えているより遙かに魔族は人間界に食い込んでいるのかもしれません」


 ノナが提言するとエーナは腕を組み考え込む。


「確かに……ダンジョンを作るだけではなく、人間社会に入り込んで犯罪組織なんかに加担している……疑問なのはどういう意図があってのことなのか……」

「その辺りがわかれば、魔族が潜伏している場所に目星などもつけられるかもしれませんが」

「そうだね……ま、今考えていても仕方がないか。ノナ、とりあえずクラウスに書状を作成して」

「わかりました。今回得られた情報全てを報告するということで良いですか?」

「うん、クラウスは騎士団から連絡は受けると思うけど、ディアスがくれた情報は私のところにしか来ていないだろうし、その点について強調しておくといいかも」

「……ディアスさんも警戒しているのですね。裏切り者に情報が握りつぶされると」

「それに身を守るためでもあるよ。単純に魔族を倒して回っているだけなら敵も無視するかもしれないけど、重要な情報を持っているとなったら……」


 と、そこまで言ってエーナは小さく息を吐く。


「ただ……もし王都襲撃の一件から続く騒動……今回の件もその一つだと考えると、ディアスは全部の事件に関わってしまっている」

「渦中にいるということで、マークされる恐れがあると?」

「その可能性も……とはいえ、旅をしていてどこにいるかも探すのは難しいだろうし、かといってディアス達を攻撃するために魔族を大っぴらに動かすわけにもいかない。ま、自衛手段はあるしそう心配はいらないか」


 ――とはいえ、とエーナは胸中で呟く。七人目の英傑と元『六大英傑』で退魔の剣士。そして魔族。特に魔族については世間に知られているわけではないが、魔界からの情報を持っている裏切り者であるなら、彼女のことを把握していてもおかしくない。


(魔族アヴィンという存在のことを含め……核心的な情報を得る可能性が高い立場にいるのは間違いない、かな?)


 エーナは今後、ディアスがどういう行動をするのか考える。そもそも彼は自分探しの旅をしていてその最中に首を突っ込んでいるだけ。けれど、敵からすると自分の意思で騒動に飛び込んでいる――あるいは、魔族が動いているという情報をキャッチでもしているのでは、などと考えてもおかしくはない。


(敵としては相手にすると無茶苦茶面倒なメンバーだけど……敵の出方を推し量る上では――)


「ノナ」

「はい」

「書類作成と一緒に、ディアス達に情報のやりとりをするよう通達して」

「情報ですか?」

「ここまで首を突っ込んでしまった以上、ディアス達に敵が干渉してくる危険性がある。それとディアスだって、友人であった魔族アヴィンと関係のあった魔族が出現したことで、真相なんかを知りたいと考えるはず」

「なるほど、定期的に情報交換をするというわけですか」

「そういうこと。とりあえず各ギルド支部にメッセージを頼んで……どうやってやりとりするのか、という点については少し詳細を詰めないといけないけど、まあなんとかなるでしょ」

「わかりました」

「で、ディアスが次に取りそうな行動は……」


 そこまで言った時、部屋にノックの音が。ノナが応じると事務員の女性が部屋に入ってきた。


「あの、エーナさんにお客さんです」

「来客? 今日は別にスケジュールには入ってなかったと思うけど」

「飛び込みらしいので」


 そして女性が客人の名前を告げると――エーナとノナは顔を強ばらせる。


「えっと……どういう名目で?」

「エーナさんと話がしたいと」


 ここでエーナとノナは互いに顔を見合わせる。


「……突然どうしたんだろ?」

「私にはさっぱり……そもそも私は会ったことがない方ですし」

「それもそうか……わかった。お通しして」

「はい」


 返事をして事務員は立ち去る。残ったエーナとノナは少しの間沈黙した後、


「……何か、動き出しているのかな?」


 そんな呟きを、エーナは放った。


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