あてのない旅路
「聖王国の王様……あるいは王族、そういった人物達はどう考えているのかしら?」
王族、か……俺は頭をかきつつ、
「王族の誰かが魔族と手を結んでいる可能性もあるのを念頭に置いて……普通の王族からしたら極めてまずい状況だろうな。王城にいる裏切り者がどこまで魔界と交流があるのかはわからないが、情報のやりとりをしているのだとしたら……」
「人間界の情勢が筒抜けよね?」
「ああ、そうした事態はすぐにでも解決したいところだ……ただ、魔王との戦いでこちらの情報が漏れていなかったという事実を踏まえると、やはり裏切り者は反魔王同盟と関連している存在である可能性が高いと思う」
「……もしかして先日の王都襲撃、場合によっては陥落まで果たせた可能性がある?」
「城内は手薄だったとか、そういうケースはあったかもしれない……ともあれ、そうした過程であるなら今後も似たような騒動が巻き起こるだろう」
「そうした中で王族は……」
「お家騒動ということで、魔族と手を組んでいるなんてパターンもありそうだしなあ……ただ」
「ただ?」
聞き返すミリア。そこで俺は肩をすくめ、
「一人だけ、裏切り者ではないだろうという王族がいる」
それが誰なのかはミリアもわかっていたらしく、
「残る『六大英傑』の一人ね」
「そうだ。王族きっての異端児であり……アイツなら、確かに話を通して王族――ひいては王にまで話を通せるかもしれない。最大の問題は、俺と同じ根無し草でどこにいるのかまったくわからないことだけど」
「でも、確実性をとるのなら……」
「そうだな、アイツを探して話をすること……が、一番確実かな」
その人物とは多少なりとも交友があるし、何より色々話をして反魔王同盟なんてものに与するような人間でないのはわかっている……そもそも、現在の王と親類かつ、親友という間柄なのだ。当然王に反旗を翻すはずがない。
「まあ話を通すのはいいとしても……最大の問題はことさら面倒なことだな」
「そんなに見つけるのが難しいのかしら?」
「どこで何をしているのか、親類にすら話さないからなあ。目撃情報などを調べ回るしか方法はないし……旅のどこかで顔を合わせるのを待つしかないか」
と、俺は言いながら小さく肩をすくめた。
「能動的に会いに行こうとすると顔を合わせられないような人物だからな。ついでに言えば会いたくない時にばったり出会ったりする」
「……それは、偶然よね?」
「たぶんな」
俺は苦笑する――その人物の顔を頭に思い浮かべ、
「ま、いいや。とりあえず自分探しの旅は継続しつつ、情報を漁ろう。そう簡単に見つかるとは思えないけど」
「それまでは、国に任せるのかしら?」
「そうだな。政治の部分なんかは下手に触れたらまずいだろうし、情報だけ渡してクラウス達に頑張ってもらおう。あ、そうだな……これだけ情報を渡しているんだから、続報くらいは寄越せと言うのはありか」
ただ、情報を得るのなら冒険者ギルドを介しエーナとやりとりする必要があるな。一つの町に滞在して、連絡が来るまで待つ……というのが、現実的な方法だろうか。
「……うん、方針は決まったな」
と、俺は一つ呟いた後、話をまとめる。
「ここでやれることは全て終わったし、明日くらいには町を出ようか。二人はそれでいいか?」
「私は構わないわ」
「こっちもいいよ」
ミリアとアルザが相次いで同意したので、俺は最後に一言告げた。
「というわけで、ガルティアから始まる一連の事件は終了……結局戦っていることが多かったし、次に訪れる町ではゆっくりしたいところだな――」
かくして、俺達は旅を再開した……などとモノローグ的に語ってみつつ、俺達は街道を歩く。
次の目的地は特に定めていない。とはいえミリア達は色々と情報を収集していたらしく、この町にはこういうものがあるとか、色々と俺に助言してくる。
「うーん……そうだな……」
と、唸りつつ俺はミリア達の話を聞き続ける……ようやくというか、それらしい旅になってきた気がする。
「せめて方角くらいは決めるか……聖王国の東部へ向かおう」
「何か理由があるの?」
と、アルザが尋ねてくるのだが、
「いや、仕事の関係であまり足を踏み入れたことがないから」
「そう……あ、せっかくだから観光名所とか回ってみようよ」
「そうだな……ただ、東部は王都周辺なんかと比較すると魔物なんかも少ないから、仕事は少なくなる。三人で旅を始めて大きな仕事をしてお金に余裕があるとはいえ……あんまり散財しているとすぐなくなるからな。その辺りはちゃんと考えてくれよ」
「わかってるわかってる」
「そもそもアルザは目的もあるだろ?」
「それなりに仕事もしたし、ちょっとくらい遊んでも良いんじゃない?」
「……まあ、アルザがそれでいいと言うのなら別に構わないけど」
当面の資金は問題ないし、町を見て回るくらいなら別に仕事をしなくてもいいかなあ……頭の中で旅費を計算しつつ、俺達は進路を東へ向け、歩みを進めたのだった――