追うか否か
一通り騎士達の作業を眺めた後、俺達は町へ戻り一泊。幸いながら魔物も全て消え失せ、本当に一区切りといったところ。
「やれやれ、また書かないと……」
で、翌朝俺は宿屋の部屋で手紙を書いている。その宛先はエーナ。今回の顛末などについては国側から情報が降りてくるはずだし、俺が最後まで参戦したこともすぐにわかると思うが、魔族のことについてはちゃんと報告しておいた方がいい。
とりあえず魔族の詳細についてわかることを書いて……冒険者ギルドを通して手紙を送る。そして騎士の詰め所へ向かい、いくらか話をする。
「ひとまず魔族が拠点としていた場所は見つけました。しかし、資料の類いは処分されていました」
「完全にもぬけの殻、になっていたわけか」
「はい」
まあ魔族からすれば当然の話か……結局情報はなしで疑問ばかりが増えていく。
「ディアスさんはこれからどうされるんですか?」
……首を突っ込んだ手前、仕事をすると思っているのだろうか。
「ここからは聖王国に任せるよ。一個人で調べられるレベルは超えているからな」
「……そうですね」
納得する騎士。それで話は終了し宿へ戻ると、入口でミリアとアルザが待っていた。
「結果は?」
ミリアの問い掛けに対し俺は首を左右に振る。
「残念ながら収穫なしだ。ま、さすがにあっさり情報を手に入れられるほど甘くはないってことだな」
「そう……」
「エーナへ手紙を書いたし、後は任せるしかないな」
「独自に追うという気はないのね?」
「そもそも無理だろうな。もちろん、気にはなっている……アヴィンの従者がなぜああした行動をとっていたのか……それはアヴィンに関わっていることなのか。単純に主人を変えただけ、という可能性もあるけど」
「でもあの魔族はアヴィンという魔族に対し主、と呼んでいた」
ミリアは俺へと語る。
「魔族自身がそう呼んでいた以上、あの魔族の主はあくまで魔族アヴィンのことだと思うわ。現在仕える魔族はいるかもしれないけれど……おそらく、アヴィンのことを考慮してあの場にいた可能性は高い」
「そうか……何にせよ、人間界を脅かそうとしていたのは間違いない。それを防いだということで今回は良しとするしかなさそうだな」
正直、情報源はもうない……アヴィンの痕跡もガルティアではほとんど消え去っていたわけで、これ以上辿れる道はない。ここから先、調べようと思ったら……冒険者ギルドや国と密接に関わる必要がある。
情報はクラウスやエーナに渡しているので、俺が積極的に関わろうとすれば了承してくれるだろう。とはいえ、戦士団すら抜けてただの一冒険者となった俺がやるべきことなのか、と言われると微妙なところだ。例えばギルドの依頼で戦線に加わるとかはありだけど――
「色々気になることはあるでしょうけれど」
と、ミリアは俺へ告げる。
「私達はディアスの方針に従うだけよ」
「……もし首を突っ込むとなったら手を貸してくれるのか?」
「私の方も多少気になってはいるからね」
ミリアの返答と共に、アルザもまた小さく頷く。ふむ……。
「そうか、わかった……とはいえ、調べるにはそれこそ魔界へ乗り込むくらいしか方法がない以上は、続報待ちかな」
「もう一つ、やり方はあるけど」
と、今度はアルザが口を開いた。そこで俺は、
「やり方? 何かあるのか?」
「魔族と手を結んでいる人間を見つける」
「……相手は王城の中にいる人間だからなあ。下手すると大臣クラスである可能性がある。もしそうだった場合、魔界へ行くよりも厄介な事態になるかもしれない」
「そうなの?」
「どういう意図で魔族と手を組んでいるのかは不明だが、絶対権力争いとか、そういうことに絡んでいると思う。大臣クラスになってくると独自に情報網を持っているレベルだ。下手すると俺達が嗅ぎ回っている、なんてことを知った時点で攻撃してくるかもしれない」
「……面倒そうだね」
「単純な戦闘だけだったらまだいいんだけどな。例えば根も葉もない噂を立てられて社会的にダメージを与えるとか、陰湿な手を用いてくる可能性もゼロじゃない」
そういう方が個人的には面倒……裏切り者については、完全にクラウスなんかに任せた方がいい。
ただ、彼だっておいそれと解決できる問題なのかもわからない。騎士団長とはいえ、王や大臣に従っている存在だ。彼らのことを調べようとすれば逆鱗に触れてしまう可能性もある。
そうなったらクラウスは……今回の件、慎重に事を運ばなければ危険だろう。
「ねえ、一ついいかしら」
と、ここでミリアが小さく手を上げた。
「確認だけどディアス。あなたの名前で王城へ手紙を届けられるのは『六大英傑』のクラウスだけ?」
「そうだな。それも直接ではなくエーナなど冒険者ギルドを介して、だ。城へ送ると中身を見られる可能性もあるし」
「なるほど……今回の一件についてだけど」
と、少し神妙な顔つきになりながらミリアは俺へ告げた。