魔族の思惑
魔族討伐の作戦は騎士達が請け負うこととなり、俺達は魔族との戦いに集中する、という形になった。肝心の魔族について詳細が分からない以上、できることもそう多くはないけど……改めて戦力分析を行う。
「騎士は援護してくれるみたいだけど、トドメを刺すのは俺達になりそうだ」
「そうだね」
アルザも賛同する――現在の場所は酒場。食事をしつつ今後のことを話し合う。
「俺達が戦った魔族の使い魔は魔物を生み出していた……同様の能力を持っていると仮定すれば、魔族に見つかった瞬間に魔物を生成し、こちらの攻撃を阻むはずだ」
「肝心の能力については……」
ミリアが言う。俺は首を左右に振りつつ、
「使い魔が保有していた能力で分析するのは愚だ。本体の能力が如何ほどかは、相対してみなければわからない……ただ」
と、俺は口元に手を当てつつ、
「魔物の生成能力……使い魔ですら一気に生み出していたことを考えると、数秒足らずで大量の魔物を生み出せるかもしれない」
「仮にそうだとしたら……」
「俺の魔法とアルザの退魔……その二つに加えて騎士達の援護があれば、抑えられる可能性は十分ある。ただし、魔物を倒し続けても決定打にはならない。魔族を打倒しなければ当然戦いは終わらない」
「魔物を倒す役目と、魔族を倒す役目がいるということね」
ミリアの言葉に俺は頷く。そして、
「魔族の力量と魔物の出現速度……それを勘案して、誰がどう動くのかを決めたい。二人とも、それでいいか?」
「ええ、わかったわ」
「私もそれでいいよ」
両者はあっさりと同意。そこで俺は、
「基本は俺とミリアが魔物と戦い、援護しつつアルザが魔族へ斬り込んでいく……最終判断は魔族と相対した時だ。どういう立ち回り方でも問題ないよう、心構えはしておいてくれ」
「……あとは、敵がどう動くかだよね」
アルザが呟く。敵をおびき出す作戦については騎士に任せているわけだが、こちらの思惑通りになるのかはわからない。
「作戦が上手くいけば……ってところかな?」
「そうだな。騎士の作戦内容を聞いたけど、それで誘い出される可能性は十分ある……が、状況に応じて変わるし、読めないことも多い。ま、実際の先頭は出たとこ勝負だな」
「……今ならパメラとかに連絡すれば間に合いそうだけど」
「戦士団が関わったとはいえ、もうガルティアと関係の無い話だからな。それに、戦士団である以上は個人で仕事を請け負うというのも避けた方がいい。特に、いよいよ再始動した段階なら」
「そっか」
「ここはミリアの頑張りに期待しようか」
と、俺は話の矛先をミリアへ向けた。
「場合によっては魔族へ攻撃する役回りをミリアに頼むかもしれない」
「わかったわ」
「魔族本来の力を出せば、敵の能力がどのようなものでも対抗はできると思うが……」
「問題は私が全力を出した場合、騎士達に気配を悟られるかもしれないことだけど」
「その辺りは適当に誤魔化せるさ。例えば、魔族の技術を利用した強化魔法とか、そういう説明でも一応納得はしてくれると思う」
「ずいぶんと強引ね……」
「少人数での戦いだからな。少しくらい無理はしないと厳しい面もあるって話さ」
俺は肩をすくめつつ応じる……それでミリアも踏ん切りがついたのか、
「わかったわ……覚悟はしておく」
「その調子だ、頼むぞ」
俺の言葉に、ミリアは力強く頷いた。
――騎士達のおびき出す作戦については極めてシンプル。単純に調査という名目で再度砦を訪れ、作業をしながら話をする……「軍事利用されるという点を考慮し、近く取り壊しを行う。そのために明日、再度騎士団を伴い砦内とその周辺に問題がないか精査する」と。
それを聞いた魔族は、移動を余儀なくされるだろう。魔族の能力が如何ほどであったとしても、相手は密かに活動したいという思惑が間違いなくあるためだ。
魔族がどういう意図で裏組織と手を組んでいたのかはわからない。だが確実に言えることとしては、相手は密かに活動し、これからもそうしようとしている、という点だ。使い魔を倒して終わりにして潜伏している以上、まだまだ人間界で暴れる気なのが予想できる。
疑問としてはなぜそこまで……さすがに魔族に尋問するわけにもいかないし、答えが出る問題ではないと思うのだが、可能であれば知りたいところだ。あるいは、魔族について正体を暴けば……多少なりとも情報が取れるのだろうか?
加え、反魔王同盟という存在に関係している存在なのかどうかも……色々と疑問が頭の中に浮かぶ間に、騎士達は作戦を実行。その夜、魔族の動向を遠隔で確認しつつ……俺達は、砦へ向け町を出発した。