組織の撲滅
俺は魔族へ向けまた魔法を放つ――同じ雷撃ではあったが、先ほどと比べて魔力量は相当多い。
果たして――再び結界に直撃した魔法。すると、俺の魔法が魔族の防御を突き破り、相手へ直撃した。
「っ……」
短く声を発したのを俺は聞き逃さなかった。いける、と直感した時、同じように声を聞いたらしいアルザが、魔族へ仕掛けた。
退魔の力を刀身へと収束させ、魔族へ挑む。相手はまだ動かない。それとも最早策がないのかだろうか。
見た目からすると、それほど魔力を抱えているようには見えないため、退魔の力を受ければそれだけで決着がつく可能性もあるが……俺は杖先に魔力を収束させつつ事の推移を見守る。今魔法を撃てばアルザにも当たってしまう可能性がある。俺の役目は彼女の援護……そしてアルザは、魔族へ肉薄した。
彼女の剣閃が煌めき、魔族へ当たった――間違いなく直撃した。ただ、他ならぬアルザ自身が、奇妙な顔をした。
「え……?」
途端、魔族の体が塵となった。倒した、と思ってもよさそうだったが、俺は違和感を覚える。
「アルザ!」
俺は声を上げつつ、周囲を警戒。魔物はまだ残っている。けれど魔法陣の効果は途切れ、パメラと戦士達が奮戦することで一気に数を減らしていく。
「何か気付いたか?」
そうした中で俺はアルザへ近寄り声を掛ける。俺に加えてミリアもまた近寄ってきた時、
「ほとんど手応えがなかった。斬った感触はあるんだけど」
「元々、ここにいたのは使い魔の類いだったのかもしれないわ」
と、アルザの言葉に答えたのはミリア。
「遠隔操作をしているのか命令を与えられ自律して動いているのかはわからないけれど」
「ここにはそもそも本物の魔族はいなかったということか」
「ええ……少なくとも周囲の気配を探ってもそれらしい気配はない……むしろ目の前の魔族が消えたことで、気配は霧散した」
確かに、俺も可能な限り探ってみるが……魔族の気配は消え失せている。
魔物も出現しなくなって勝利した、というのは確かなのだが……なんというか、偽物を倒して戦いが終わった、という感覚だった。
「……ふむ」
俺は床へ視線を向ける。魔族の体は塵と化して床へ飛散している。
「使い魔とはいえ魔力によって形作られたものではないな」
俺の言葉に対し、今度はミリアが横まで来て、
「何かしら器を用意したようね。この方が遠隔操作には向いているからね」
「どういうことだ?」
「魔力のみを利用した使い魔の場合、当然ながら魔力をどこからか供給しなければ体を維持できない。しかも基本、生み出した存在の魔力を使う必要がある」
「まあそうだな。使い魔とは操り人形……どれだけ細くても糸で生成者と繋がっている。で、糸を経由して魔力を供給しなければならない」
「けれど器……仮初めの肉体を用意することで、魔力を供給しなくても予め装填した魔力で長期間活動できる。あるいは自律機能を持たせていれば、外部から魔力を吸収するといった手段もとれる」
「つまり、長期間にわたって活動できるようにした使い魔、ってことか。問題はなぜそういった存在を用意したのか……」
人間界で活動していくため、というのはわかるのだが……それによって行った活動が武器などを売りさばく組織に技術を提供すること。正直、意図がわからない。
「ま、いいや。調査については国に任せるとしよう……ただ、煮え切らない決着であるのは事実だ」
そう述べた後、俺は床に落ちた塵を見据える。
「可能な限り調べてみよう……もしかしたらこの魔族は、まだ人間界にいるかもしれない――」
……そうして、一応組織『深淵の檻』との戦いに決着はついた。結果的にパメラ達は組織撲滅に大きく貢献し、また同時にその話がガルティアで噂されたため、多少なりとも名誉回復という結果に至ったらしい。
「いやいや、感謝してもしきれないな」
と、オクトは俺へと言う……場所は戦士団が間借りしている屋敷。組織打倒後、冒険者ギルドからいくらか仕事が入ったらしく、当面は大丈夫そうだのことだった。
「まだまだやるべきことは多いし、課題もたくさんある……けど、騎士と協力して組織を打倒する、という経験から団員も自信を持ったらしい」
「それは良かった。色々助言した甲斐があったってもんだ」
「……ディアス、本当にありがとう」
「俺は単に放置するのは忍びないと考えただけだ。実際、必死に動いたのはオクト達だよ」
言いつつ、俺は部屋の窓から庭園を見る。
そこでは、剣術指導をしているパメラの姿があった。彼女はこの戦士団の一員として活動していくと改めて決意し、団員に対し指導を行っているところだ。
「残る懸念はパメラが指導で熱が入りまくって団員が逃げ出さないか、ってところだが」
「そこはこちらでなんとか制御するさ」
「わかった。パメラに対する報酬についてはちゃんとやっておくと伝えておいてくれ」
「今日は会っていかないのかい?」
「忙しそうだしやめとくよ」
「……そちらは、まだ何かありそうだね」
オクトの言葉に俺は小さく笑みを浮かべ、
「まあ、なんというか……気になったことは、調べないと気が済まない性分だからな――」