広間の攻防
俺とアルザ、そしてミリアの三人が広間へ足を踏み入れようとした段階で、騎士達は交戦を開始した。広間にいるのは組織のボスと魔族を除けば全身黒ずくめの組織構成員。問題は彼らに戦闘能力があるかどうか――
次の瞬間、構成員の一人である男性が短剣を取りだした。次いでその武器から魔力を発し、全身を覆い始める。
護身用の武器……にしては発する魔力が禍々しい。顔つきから戦士風には見えないし、たぶん戦闘能力は皆無だが武器の力で対応するというタイプだろうか。
武器の能力によっては厄介だが、先ほど騎士は戦士相手にも対抗できていた。ただ武器だけが強い素人相手ならば――
「おとなしく降伏してください。抵抗するのであれば、こちらも相応の対処を行います」
騎士は最初に警告する。だが組織のボスを含め表情を変えることはなく……騎士は即座に攻撃を開始する。
短剣を取りだした人物へ向け剣を振る――と、相手はそれを短剣で防いだ。ガキン! と一つ大きい音がして騎士の剣を弾き返す。
素人であることを見れば驚愕の結果だが、俺はその理由をすぐに悟った。短剣を握る男性は苦悶の表情を浮かべながら応じている。おそらく武器が自動的に男性の体を動かしている。なおかつそれは無理矢理であるため、素人の男性は強引な防御に体を痛め苦しい顔をしているわけだ。
迎撃するにしても、限界がある……騎士達はそれをすぐさま理解して制圧を始めた。途端、最初に剣を弾いた男性へ向け追撃を放つ。再び自動防御が発動し、防ごうとした……が、騎士はその動きを見極めて男性へ刃を通した。
「ぐっ……!」
吹き飛ぶ男性。剣の腹に当てた峰打ちなわけだが、威力は十分で相手は倒れ伏した。それにより、場が凍り付く。
短剣を取りだして構える構成員もいるのだが、完全に動きを止めていた――彼らは護身用として持っているこの武器が騎士達にも通じると信じていたらしい。無論、素人でも騎士の剣戟を一度受けとめた事実から強力な武器であるのは間違いないだろう。
けれど、ここにいる騎士は幾多の魔物と対峙してきた言わばベテラン……即座に短剣の能力を推測し対応を行える。この時点で勝敗は、火を見るより明らかだった。
複数の騎士が構成員へ挑み掛かる。相手は我に返って短剣をかざしたのだが――それよりも先に騎士の剣が入った。俺が援護する必要性すらない。この調子ならば広間の制圧はすぐそこだ。
とはいえ、懸念はある。俺は広間の奥へ視線を投げた。そこにいるのは組織のボスと傍らで佇む魔族。ボスの方は目前の状況を見てオロオロしているのだが、一方で魔族は動いていない。相変わらずフードを被り沈黙を守っているのは逆に不気味と言える。
だからこそ俺は魔族へ視線を向け、その動きを見逃さないように……それは相手も分かっているのか、何もしてこない。だが状況はこちらが優勢に傾いていく。
騎士が驚くべき速度で構成員を気絶させていく。持っている武器はまるで意味を成さず、彼らはただひたすら倒れるのを待つだけだが……ここで変化が。広間の入口、その反対側に小さな扉があるのだが、そこから新たな敵――戦士が出てきた。
「こちらへ!」
どうやら残っていたボスの護衛らしい……ここで俺が動く。
「アルザ、ミリア、魔族を観察していてくれ!」
言葉と共に杖を振った。その先から生み出されたのは、雷撃。騎士達が戦っている場所を通過し、槍のように変じた雷撃が……ボスへ呼び掛けた戦士へ向け、直撃した。
「がっ……!!」
戦士は直撃し、倒れ伏した――先ほど光弾を防がれてしまったが、その能力を見て防げないだけの威力を出したのだが……目論見は成功したようだ。
俺は追撃の雷を放つ。相手はそれで身構えたようだったが、剣で受けた戦士は体を幾度が震えさせて……倒れた。いかに魔法を防ぐ能力が備わっているからといっても限界がある。これで退路は防いだ。
「ぐ……くっ……!」
そして組織のボスは右往左往し始めた。広間にいた黒ずくめの構成員達はその数は半分にまで減らしているし、全滅も時間の問題。背後の気配を探ればパメラ達がボスの護衛である戦士達を撃退している……彼女の声が一つ聞こえると、悲鳴らしき男の声が聞こえてきた。順調のようだ。
残る懸念は魔族だけ。俺は魔族へ再び視線を向ける。しかし相手は一切動かない。
何かあるのか、それとも――杖先を魔族へ向ける。いつでも魔法を放てる準備をした時、魔族は身じろぎした。
「……ど、どうにかしろ!」
そこで組織のボスは進退窮まって魔族へ呼び掛けた。もはや頼れる存在は魔族しかいない……そう判断した故の結果らしいが――それはどうやら、悪手だった。
突如、魔族が腕をかざし、生み出したのは黒弾。来るか、と考えた時――その攻撃は、組織のボスへ向けられ、腹部に直撃した。
「がっ……!?」
突然の行為にボスは何もできないまま倒れる……そして魔族はとうとう動き出す。次の瞬間、魔族の周囲に魔力が溢れた。