組織の戦士
俺達の奇襲に、どうやら組織のボスは想定していない様子……このまま突き進めば相手は動揺したまま決着を付けることができる。
その場合、先陣を切っている騎士達だけで対処できそうなので、戦士団が必要なくなるかもしれないけど……いやまあ、功績を上げるために場が混乱して欲しいとは思わないが、今後どうしようかと少しばかり考えてしまう自分がいる。
けれど、そう上手くはいかなかった……組織のボスがいる扉への道を阻む人間が現れる。
「ボスを守れ!」
そう告げる人物は黒ずくめではなく戦士。その手には漆黒の剣が握られており、魔力が迸っている。
明らかに魔族由来の武器……騎士達はその武器を警戒し足を止めた。その間に広間にいる構成員達は右往左往し始めた。ボスはどう判断するか――
「おのれ……!」
使い魔を通して見る組織のボスは、驚愕から一転して怒りの表情を示した。奇襲に対し恐怖しているわけでもなく、純粋にこの集会を邪魔されたことに対し怒っているようだ。
「騎士達を潰せ!」
そして命令を放った。徹底抗戦の構え――
「ルード!」
俺はルードの近くに配置した使い魔を通して彼へ呼び掛ける。
「敵は徹底抗戦の構えだぞ!」
「わかった。こっちから多少騎士を派遣する。砦の中にいる敵の数が不明であるため、気をつけろ!」
その言葉の直後、俺達は敵の戦士と激突した。最初の攻防でどうなるか……直後、弾かれたのは騎士の剣。どうやらマレイド達が持っていた武器とは一線を画するようだ。
とはいえ騎士側も抑え込まれるというわけではない。相手の力がかなりのものであると即座に判断したか、相手の攻撃を後退して避けつつ、技術で応じるようになった。技量面ではこちらに分がある……という判断らしい。
それは実際正解で、力押しで攻める組織の戦士に対し騎士は技術によって対応した――というより、武器の力を完全に制御はできず元々持っている技術を存分に使うことができないと言うべきか。
敵の動きは直情的であり、明らかに剣の力に振り回されている……例えば町の警備をする騎士相手ならば、十分これでも倒せるはずだが今回ここに動員した騎士はそうもいかない。色々な場所から集められたとはいえ戦闘経験も十分ある騎士。その経験や技術の差によって、力だけでは対抗できない状況に陥っている。
とはいえ、騎士達としてもずっと敵の相手をしているわけにはいかない。あくまで目的は組織のボス。そこへ騎士達を進ませなければならない。
敵の数は現時点で五人。まだ増える可能性はあるが――
「先へ進め!」
俺は声を放つと光弾を生みだし騎士達を援護する。直後、敵は魔法を見て回避に移った。さらに言えば、俺の魔法を剣で弾く者もいる……あの剣には多少なりとも魔法を受け流せる能力があるらしい。まあいかに強力な武器でも遠くから攻撃されてやられましたでは格好がつかない。よって、魔法や弓矢など遠距離攻撃については対策を施しているということだろう。
これもおそらく、マレイドが所持していた武器とは違う……単純に魔族の力を有効利用するだけではなく、何かしらアレンジが加えられている……強力ではあるけど、王城の中にいる人間が武具を欲しているという点には首を傾げる。ただ普通の武器でないのは間違いなく、だからこそここでボスを捕まえて組織を壊す必要性がありそうだ。
騎士達は俺の言葉によって広間へ続く扉へと走る。当然敵達はそれを防ごうとするが……その動きを阻んだのは戦士団『蒼の王』のメンバー達だった。
「通さないよ」
パメラが不敵に笑いながら述べる。敵は苛立った顔を見せつつも、
「雇われた戦士か……構わん、全て処理しろ」
冷淡な声と共にパメラへ向かう戦士が一人。その力によって始末するつもりだったみたいだが……パメラはまず、その剣を受けた。
真正面からの激突――かと思われた矢先、パメラは相手の剣をいなし、スルリと横へ抜ける。相手は馬鹿な、という顔をして……刹那、パメラの剣戟が相手へ炸裂。吹き飛んだ。
「があっ――!」
声一つと共に地面に倒れ伏す戦士。そこでパメラは不敵な笑みを絶やすことなく、
「さっさと始末したいみたいだけど、残念ながらそうもいかない」
「ちっ……!」
敵の誰かが舌打ちをした……その時だった。バタバタと通路を掛けてくる音が聞こえてくる。
視線を転じると、扉の奥から救援に駆けつけた敵の戦士……剣は既に抜き放って臨戦態勢だ。
俺は即座に魔法準備を始め、なおかつアルザが救援に対応するべく足を動かそうとして、
「兄ちゃん達は騎士の後を追いなよ」
そうパメラは言う。
「魔族がそっちにいるなら、向かった方がいいでしょ」
「……そうだな。ここは大丈夫か?」
「なんとかなるよ。さて、修行の成果を発揮する機会だ!」
パメラは叫ぶと同時に残る敵へ向け走る。相手は厄介な敵だと足を後方に移そうとして……それよりも先に彼女が肉薄。斬撃を決め相手は吹き飛んだ。
「ここは任せて!」
――俺はパメラの言葉に従い走る。それにアルザとミリアは追随し……やがて、騎士達がとうとう広間へと続く扉を開けた。