突入
組織のボスがなおも演説を行う間、騎士達は動き粛々と突入準備を進めていく。その間も俺は使い魔で敵の動向を監視。特に注目すべきは組織のボスと傍らにいる魔族。
とはいえ魔族は顔をフードで隠しており、人相がわからない。ローブで身を包んでいるため体格くらいはわかるが男なのか女なのかも判然としない。
とはいえ、監視は続ける……突入直後、相手がどのような反応をするのかでこの集会が罠なのかはおおよそわかるだろう。横ではルードが騎士達へ指示を出して準備は最終段階に入る。
「……戦士達はいけそうか?」
ルードはオクトへ向け確認の問い掛けをする。
「はい、大丈夫です」
「改めて作戦の確認だが、そちらの役目は先陣を切る騎士達の後詰め……とはいえ、全員が揃って移動するわけではない」
「はい。私を含め、入口付近に待機する戦士を数名配置します。主軸は戦士パメラに担ってもらいます」
「任せて」
やる気満々のパメラ。オクトはそれに頷き、
「魔法の道具によって、私とパメラについては相互に連絡をとれるようにしています。ディアスが砦の外を使い魔で見張っているなら、私から何かしら連絡を取る必要性はないかもしれませんが」
「いや、現場判断で動き方はいくらでも変わる。連絡手段は多いに越したことはない」
そうルードは語った後、一度呼吸を整え、
「合図と共に騎士達が見張りへ向け攻撃を開始する。それと共に戦士達は飛び出してくれ」
指示にオクトは頷き……ルードは俺を見た。
「強化魔法は既に付与済みだな。あとは……砦の周囲に見張りはどの程度いる?」
「城門付近に数名。他はゼロだ」
「ずいぶんと不用心……いや、敵としてはバレていないと考えたか」
「油断しているのなら好機だな。ただ、砦の中まではわからないぞ」
「そこについては臨機応変に対応だな」
「なら俺も適宜動くとしよう。使い魔はここに残しておく。これに声を掛ければ俺にも届くから、敵の動向などが変わったと判断したらすぐに連絡を」
「わかった……それじゃあ――」
ルードは一度は以下の騎士を見た後、
「攻撃……開始!」
号令が下る。直後、砦を囲む茂みから一斉に騎士が出現し、見張りへと攻撃を仕掛けた。
相手はあまりに突然の出現によって、動きを止めた……夜で表情は見えないが、間違いなく驚愕しているのだろう。もし敵が来たら合図くらい出す手はずだったはずだが……騎士達の攻撃を受けてあっさりと倒れ伏す。奇襲は成功だ。
「頼むぞ」
ルードの言葉を受け俺は小さく頷き……直後、オクト達戦士団の面々が砦の近くへ。その後を俺とアルザ、そしてミリアが続いていく。
程なくして城門付近は完全に制圧……使い魔で砦の奥を監視しているが、まだ気付いた様子はない。
「砦に踏み込んだ時点で気付くだろうな」
中へ通じる扉は閉まっている。俺は少し意識を集中させて扉の奥……その気配を探ってみる。
「人が多少いるか……アルザ、そっちは何かわかるか?」
「見張りなのか、それとも演説を聴くつもりがないのかウロウロしている人がいるね」
「さすがに室内で戦闘があったら奥にいても異変は察知するだろうな……ま、既に砦の周辺は固めている。今更バレて逃げようとしても無理か」
魔族が動けばその限りではないが……演説の最中も、魔族は身じろぎ一つしない。組織の構成員の中には明らかに魔族へ目線を向けている人間もいるのだが……彼らに対し一切反応していない。
なんだか不気味ではあるのだが……あの魔族は組織のボスと手を組んでいるのか? それとも組んでいる魔族は別にいて、単なる組織の監視役とかなのか。
「ミリア、魔族の気配からどういう存在なのかわかるか?」
「感じたことのない気配ね。少なくとも私が知っている魔族ではなさそう」
「そうか」
会話をする間に騎士が扉へ近寄る。魔法で破壊するのか……と思ったが、どうやら開いているらしい。まあ見張りも少ないし、さすがに入口を閉めるわけはないか。
先陣を切る騎士達は一度俺達のことを見た。こっちは頷き、オクトとパメラもいけるということで大きく頷いた。扉を開ければ本格的な戦闘が始まる……戦士達は戦闘態勢に入る。
そして――扉が開け放たれた直後、数名の騎士が一気に突入。まず視界に入ったのは戦士風の男性が二名。両者とも黒装束などではない……もしかすると、組織のボスの配下もしくは護衛か。
「なっ……!?」
相手はさすがに驚いた……が、声を漏らすことしかできなかった。騎士達の容赦のない攻撃が入って二人は倒れ伏す。とはいえ峰打ちで気絶しているだけ……そこで、
「――て、敵襲!」
奥にいた人間が俺達のことを目に入れて、叫んだ。直後、使い魔の視点で広間にいた構成員達がざわつき始めた。
さらに言えば、組織のボスも何事かと演説を中断する……直後、騎士達が一気に組織のボスがいる広間へ向け駆け出し……それと共に相手も状況を理解し始めたようで、先ほどまで力強く演説をしていたボスの表情が、驚愕に染まった。