力と代償
使い魔を通して見えるその姿は、恰幅の良い白髪の男性……五十過ぎくらいだろうか? 仰々しい白い法衣は黒装束を身にまとう組織の構成員と比較するとずいぶん異質に見える。
加え男の傍らには白いローブを着込みフードを被った人物がいる。人相はまったくわからないが中肉中背といった案配であり、なおかつその気配を使い魔越しに確認すると、
「ミリア、組織のボスらしき男性の横に魔族がいるみたいだ」
「……気配を探っているけど、それほど強い雰囲気はないわね」
ミリアが言う。ふむ、仮に魔族と交戦する場合でも、対処はそう難しくないのだろうか?
「もし魔族が突っかかってきたら俺が対処したいところ……ミリア、他に魔族の姿はあるか?」
「今のところ何も感じないけれど……」
「単独で活動しているのか、それとも……まあいい、とりあえず様子を見よう」
俺は演説を行う組織のボスを観察。そこで、
「十分な人員と資金が集まり、いよいよ組織は大々的に活動を始めることとなった! まずは我らが拠点を中心に活動範囲を広げ、いずれ王都へ手を伸ばすことになる!」
「……王都が最終目標か」
「ただ、軍事的な意味合いというわけじゃなさそうだ」
俺の呟きに対し、反応したのはルード。
「この組織は代償はあるにしろ強力な武器を売りさばいていた。そのビジネス範囲を今よりも大きくしようって話だな」
「戦士団『蒼の王』に所属する戦士も持っていたけど……地方都市だけでなく、王都で商売をしようって話か」
「リスクが大きいと思うんだが……何か後ろ盾があるのか?」
ルードが疑問を投げかけた時、組織のボスはさらに話を続ける……といっても、組織の成り立ちを振り返るような内容だ。
「我が組織『深淵の檻』は、魔族と手を結んだことから始まった。およそ十年……組織の規模は年々拡大し、いよいよ飛躍の時と相成った。我らが開発した武具は様々な組織からの引き合いがある。加え」
と、彼は両手を左右に広げながら語る。
「王都……その王城の内にいる人間からも、とうとう話が舞い込んだ」
「……わざわざこんな組織から武具を購入する理由が見当たらないんだが」
俺は驚きよりも、疑問の方が先に口から出た。
「ルード、この組織の武具は強力かもしれないが……ヤバい物だと知られたら、政治的なダメージは大きいはずだよな?」
「だと思うんだが……その人物だって魔族由来の武具だってわかっているはずだが……」
「ねえねえ、一ついい?」
と、ここでアルザが割り込むように話に入ってくる。
「魔族由来の武器と言っても、私達が使っている武器って魔族の技術とかを使っているよね?」
「……ダンジョンから得た武器などを基に技術を発展させてきたし、間違ってはいないな」
俺はそう答えた後、アルザへ解説を行う。
「ただ、あくまでそれは技術を応用している物であって、魔族の力を直接利用しているわけじゃないからな」
「直接使った場合、戦士団が使っていた武器みたいに魔力を吸われるってこと?」
「あれはまだ可愛い手合いだよ。ひどいものだとそれこそ寿命を吸うような代物まである」
その言葉にアルザは目を丸くする。
「寿命……?」
「ああ。そういうヤバい副作用もある……しかもここからがひどい話なんだが、そこまでしても武器自体強くなかったりする」
「それは……武器の力と代償が釣り合っていないってこと?」
「その通り。こういう組織が作る武器というのは代償がある代わりに強力というわけだが、そもそも参考にする魔族と人間の魔力……その相性が何より重要となる。どれだけ強力な魔族であっても、人と相性が悪ければ人間に扱えない武器になる」
「弱い魔族でも、少ないデメリットで強い武器になる可能性もあるってことか」
「そうだな……今回の場合、王城にいる人間が興味を示したってレベルだから、相当強力な武具があるのかもしれない……戦士団『蒼の王』が持っていた武器はそれこそ安い物で、本命は別にあるのかもしれない」
俺の言葉になるほどと納得した表情を浮かべるアルザ。するとそこでルードが、
「最大の疑問は、こんな組織の武器を手に入れて王城の人間が何をするか、だな」
「強力な武器が欲しければ他にいくらでも方法はありそうだけど」
「それだけこの組織が作る武器が特徴的なのか、それとも……まあいい、これだけ大規模な集会をやっている以上、調べれば何かしら情報が出てくるだろ。今は王城の人間が関わっているという事実を知っただけでいい。ますます野放しにしておけない理由にはなったからな」
ルードはそう語ると俺へ視線を向け、
「突入のタイミングはこちらで判断する。先陣を切った騎士の後に続いてくれ」
「わかった……オクト、いけるか?」
「問題ないよ」
「ミリア、魔族の位置だけは常に把握していてくれ。相手がどういう動きをするかで俺の立ち回りが変わる」
「わかったわ」
密かに準備が始まる……突入まで、残る時間は少なかった。