砦に集う者達
夜、俺達は騎士達と共に行動を開始した。既に砦には組織の人員が入っているらしく、見張りは立てているが人数は少ないとのこと。
騎士達が攻撃を仕掛けてくるというのは夢にも思っていない様子だが……念のため、それが誘い込む罠であることを考慮しておくべきだろうか。
「まあ、可能性はゼロじゃないな」
と、作戦の指揮官であるルードも語る。
「だがまあ、集まっているのは間違いない。組織に潜入している騎士もそう言っているからな」
「その騎士が寝返っている可能性は?」
「……それもゼロじゃないが、さすがにそこまでいくと何故わざわざ俺達と戦うのか、という疑問にぶち当たる」
ルードは解説しながら前を見る。真正面には漆黒の森。敵に気取られないよう必要最小限の明かりで俺達は進んでいく。
「色々考えられるが、こちらは砦を囲めるくらいには人を動員しているわけだ。例え敵に魔族がいようとも……さすがに、組織の構成員だけで罠にはめようというのはキツいだろ」
「組織に戦闘員はいないのか?」
「ゼロじゃあないみたいだが、さすがに正規の騎士と比べれば……な」
情報の信憑性がどこまであるのか……などと疑問を持ったが、まあそこまで深読みするのは無意味か。
だが、色んな可能性を念頭に置いて動くべきだな……昼間、騎士達の様子を眺めた限り、それなりの戦力を動員しているのは間違いない。先日の王都襲撃に関わる戦いに参加した騎士もいるようなので、結構な面子を揃えてきている。
だが、問題は一つの駐屯地から来たわけではなく、あちこちにいる騎士が呼ばれている点。これが一つの隊であれば完璧なチームワークで動くに違いないが、そういう高度な連携を期待するのは難しいだろう。
であれば騎士達はどう動くか。そこは指揮官であるルードの能力に関わってくる……まあ少なくとも、騎士達が与えられた命令をしっかりこなそうとするだろう。逆に言えば緊急事態に陥った際に柔軟な動きが難しい。
そこを埋めるのが俺やアルザ、そして戦士団ということになるか。最前線の支援役、という立ち位置なのはそれが理由だろう。
ルードは俺が来たためある程度自由に動き回れる役目を与えてきた。つまり何かあれば手を貸してくれというわけだ。ま、それなりに名が売れている俺である以上はそういう立ち位置になるのは仕方がない。仲間のアルザはそれで問題ないし、ミリアは……今回、その戦いぶりはどうなるか。
と、いよいよ砦に近づいていく。それほど高くはないが城壁が存在し、建物からは魔法の明かりが見えた。
そして騎士達は砦を囲うように展開していく……既に強化魔法は付与している。仮に魔物が出現してもすぐさま対応できるはずだ。
「……さて、ルード」
物陰に隠れつつ、俺は近くにいるルードへ声を掛ける。
「敵は大きな仕事があるから集まった……らしいけど、その大きな仕事って何だ?」
「潜入した騎士も詳細は知らなかった。おそらく今日ここで大々的に発表されるということだろう」
「その情報を聞いてから攻撃しても遅くはないよな? 敵の動きとか様子を知るのにも繋がるし」
「そうだな。しかし、侵入はできるのか?」
「別に入る必要はないよ」
俺は砦へ目を凝らす。
「ミリア、魔族の気配はあるか?」
「……いるみたいだけど、それほど強い気配ではないわ」
「ふむ、その魔族が持っている力を利用して武具を作成しているのか? それとも高位魔族の連絡役か?」
疑問を告げつつ俺は建物の外観に探知系の魔法がないのを確認する。
「ルード、使い魔を生み出して建物に張り付かせる」
「それで会話を聞こうってことか」
「砦の構造から考えると、窓があればそこから声は漏れてくるはずだ」
俺は小鳥のような使い魔を生み出して――闇夜に向かって飛ばした。まずは砦の上空をぐるりと旋回。使い魔の視点からは、城門周辺にしか見張りはいない。騎士達は見つからないまま問題なく展開できている。
次に鳥を一気に建物まで近づける……組織の人員が集まっている場所の窓とかあれば会話を聞くことは楽勝だが……と、ここで声が聞こえた。
「我が同志達よ! よくぞ集まってくれた!」
……どうやら、今から演説が始まるらしい。仰々しい言葉を聞きつけて俺は小鳥を当該の場所にある窓へ近づけた。
そこはどうやら広間らしき場所。位置的には砦の奥だろうか? そこに黒ずくめの構成員が合計で三十名ほど。その見た目は男女混合で、年齢層もバラバラだ。
そして、彼らと向かい合っている人間が二人……いや、使い魔を通しても理解できる。片方は魔族だ。
俺はもう一体小鳥を作成。それは飛ばすのではなくルードの近くへ。その鳥を通じて声を聞くことができる。結果、アルザやミリアもその小鳥へ視線を集中させた。
「此度の決起集会は、我らが組織『深淵の檻』をさらなる発展に導くことになるだろう!」
俺は組織名を頭の中に刻みつつ……演説を行う人間の姿を確認した。