十日後
パメラのなかなかに厳しい指導を受けながらも、戦士達は弱音を吐かず鍛錬を続けた。一日、また一日と経過するごとに一緒に鍛錬を繰り返した影響か結束力も高まっているのは間違いなさそうだった。
思えば戦士団『蒼の王』は上層部があんな具合だったので、チームワークとかあまりなかったのだろう。どちらかというと寄り合い所帯みたいな性格が強かったはず。
けれど今回残った面々が集まり大きな仕事をやることになり、なおかつ戦士団が窮地に立っている実情から頑張ろうという連帯感が生まれた……結果として団全体のレベルアップを図ることに成功した。
加え、オクトが作戦前に色々と動き回った。団に残っていた資金は剣術道場の訓練費用だけでなく、物資の補給に費やした。残った者達の装備を整える……色々と駆け回って、一通り購入することができたようだった。
装備品については支給されるケースとされないケースが存在するのだが……オクトは最低限の装備がなければまずいという判断で今回支給する形となった。そしてこれによって団員達の士気はさらに向上し、準備は万端となった。
そして十日が経過し――作戦の日、俺達はガルティアにある騎士団の詰め所を訪れた。時刻は朝。作戦開始は夜だが、移動が必要であるため早朝に集合した。
「では、参りましょうか」
騎士はそう言って移動を開始する――この隊は名目上魔物討伐を行うということで編成されている。敵の組織に動きを悟らせないためのものであり、実際ガルティアの住民はそう思っている。
組織に勘の鋭い人間がいたら逃げられる可能性もあるけれど……そこについては大丈夫だと騎士は述べた。組織に潜入している調査員による情報らしい。
「彼らは今日、大規模な集会を行います。どうやら大きな仕事が控えているようで」
それを狙って攻撃するというわけか……集会が行われる場所は、ガルティアから片道五、六時間ほど移動した所にある森の中の砦。そこは元々山岳に存在していたダンジョンから出現する魔物を監視するために建設されたらしいが、攻略されたためうち捨てられていた。それを多少なりとも改装して使われているようだ。
「役目を終えた段階でちゃんと解体しておくべきだったのでしょうけれど」
「ま、そこは仕方がないさ」
騎士の言葉に俺は肩をすくめながら答える。
肝心の作戦内容については、まず戦士達が砦を囲むように布陣し敵が逃げられないようにする。そして主力部隊が砦に押し入って組織のトップを拘束。可能であれば部下なんかも全員捕まえたいところだが、そこは現場の状況によって変わってくるとのこと。
「何より組織のトップ……それを捕まえることを最優先に」
騎士はそう述べる。トップを失えば組織そのものが瓦解していく、ということなのだろう。
まあ組織の今後がどうなるかとか、そういう面については国に任せればいい……こちらは任務を遂行するだけだ。
俺達は街道を進み続ける。道なりに歩めば王都へ辿り着くこの街道は人通りも多い。けれど少しして本筋から逸れる道へと入った。
その正面には山が一つ。そこへ向け進んでいくらしい。
「目標地点の手前に町が一つあります。そこで本隊と合流する手はずとなっています」
騎士はそう語る。やがて進んでいると山の手前に町が見えた。規模はそれなりで、街道から逸れた場所にしては大きいと思うくらい。
俺はこの町が形成された経緯をすぐさま理解する。今回攻撃する組織はダンジョンから現れる魔物を監視するため……つまり、ダンジョン攻略をするべく冒険者が集まった結果、町が形成されたというわけだ。
「結構大きい町だね」
アルザがコメント。するとそれに気付いた騎士は、
「山の中腹にあったダンジョンを攻略するために人が集った結果らしいです。そのダンジョンは三十年前くらいに攻略されたのですが、現在も町は残っている」
「へえ、そうなんだ」
「町長の執政が良かったのでしょうね。ダンジョンがなくなってもそれまでに生み出した産業で生計を立てるようになったので、町の規模も縮小していないとのことです」
騎士が語る間に俺は町の入口に騎士がいるのを目に留めた。
「来ているようですね」
町へ到着。そこで先行していた騎士の案内を受けて詰め所を訪れる。既にそこには幾人もの騎士がいて、
「あれ?」
見覚えのある人間を見つけて俺は声を掛けた。
「ルードじゃないか。どうしたんだ?」
「……それはこっちのセリフなんだが。ガルティアに戦士がいると聞いて依頼したんだが、まさかディアスだったとは」
苦笑するルード――王都襲撃の際、共に戦った知り合いだ。
「自分探しはどうしたんだ?」
「まあ色々あって」
「まったく……本当に騒動の渦中に入るのが好きなんだな」
「そういうわけじゃないが……」
「まあいい、ディアスが来てくれるのであれば非常にありがたい。では早速、作戦概要について説明しよう――」