戦士の指導
作戦が始まるまでの十日間については、ひたすら戦士団『蒼の王』に残るメンバーの強化に費やすことに。剣術道場でお世話になるだけではなく、基礎的な教練についてはパメラが担当……その指導にはミリアも他の戦士に混ざり剣を振った。
で、俺の方は世話になるということで剣術道場で色々と手伝いを行う。主に雑事で人数が多くなるということで買い出しとか行った。
問題は道場の世話になるため費用が掛かること。なんだったら今回の仕事で得られる報酬を使うということで後払いの選択肢もあったが……ここについては戦士団の資金で工面した。
「まあ、こういう時に使わないとね」
と、オクトは述べた。所属する戦士から上納金などと称して金を巻き上げていたことから、さぞかし貯め込んでいる……とはさすがに思っていなかった。実際、残っていたお金はそれほど多くなかったし、これからが大変だろう。
けれどオクトは「先行投資だ」と言い、遠慮なく使った……もし今回の作戦が上手くいかなかった場合、最悪戦士団に仕事を依頼する人間は現れないかもしれないし、正念場だからこそ……ちゃんと成功させて戦士団復活の足がかりにする……それが今回の作戦において優先すべきことだ。
とはいえそれが一筋縄ではいかないことも承知している……戦場で俺が支援できることにも限界がある。強化魔法を使って援護をするにしても、功績を上げられるかどうかは彼らの頑張り次第だ。
俺の考えが伝わったのか、パメラの指導にも熱が入る……いや、名声を得るという目先の欲に釣られて無理させているな、あれ。
「まだまだ! これで終わりじゃないよ!」
「はいはい、少し落ち着けって……」
俺はため息混じりに声を掛ける。気付けば戦士達はへばって床に座り込んでいた。
「時間も無いし多少なりとも厳しい指導は必要だろうけど、倒れるまでやったらダメだって」
「うー……」
「やる気があるのは良いけど、周りのことをちゃんと見ないと」
「それが戦士団だから?」
「そういうこと。ま、パメラが戦士団に不向きなのはなんとなくわかるよ。でも、おそらくこういう方法でしかパメラはのし上がっていくのは難しいと思うぞ」
俺の言葉にパメラは眉をひそめる。
「どうして?」
「これはパメラが弱いと言っているわけじゃない。むしろ、魔王との討伐隊に加わるくらいの資格は持っていると俺の目から見ても言える……が、それでも最前線に立つのは難しかっただろう」
「それは『六大英傑』がいるから?」
「より正確に言えば……英傑入りするのが難しいから、かな」
パメラは沈黙する。俺はきっぱり「パメラは英傑になれない」と宣言しているのだが、彼女は別段不快に思っていない様子。
「怒らないんだな」
「事実だからね。実力をちゃんと認識するのが上手く生き延びるコツだよ」
「なるほど……英傑というのは何かしら人間離れした能力を持っている。それは鍛錬の結晶であったり、あるいは天性の才覚であったり色々あるけど……共通しているのは他者が真似できるようなものではない、ということ」
「あたしの場合は技術の結晶だけど、他者が真似できないようなものではないもんね」
「今よりさらに剣術に磨きを掛ければどう転ぶかわからないけど……」
「どうだろうね。あたしの場合はアルザが凄まじい速度で英傑入りするのを間近で見てたからなあ。それを見て、あたしには無理だと思ったりもした」
なんだか遠い目をするパメラ。それに対し俺は、
「なんだか因縁とかありそうだな」
「別に無いよ。あたしが一方的にアルザの様子を窺ってただけ。ま、兄ちゃんの言いたいことはわかるよ。実力で成り上がるのは難しい……あたしより強い人はごまんといるわけで」
「そうだな」
「だから、それ以外のことで功績を……って話だね」
「というより、剣術以外の能力を身につけて評価されていくという方法だな。パメラの剣術は確かに強い。でも、単純な強さだけではいくらでも上がいる……けど戦士団の運営とかをやれる、となったら他者の評価も変わるわけだ。そこについてはアルザに勝てる自信はあるだろ?」
「どうだろうね……ま、そうした評価点を作るきっかけが今回の作戦か」
彼女の言葉に対し俺は小さく頷き、
「単純な技能だけではなく戦場における指揮能力とか、状況把握能力とか……そういう技能もかなり評価されるんだぞ。その辺りを今後鍛錬していけば、パメラは国も一目置く戦士になれるはずだ」
「なんか言いように乗せられている気もするけど……ま、やれるだけやってみるよ」
「ああ。そういうわけで、ちゃんと仲間となる戦士についても目を掛けてチームワークを養ってくれ。厳しい指導だけで人はついてこないぞ」
「はーい」
丸め込まれた、みたいな顔をしつつもパメラは戦士達と向かい合って、指導を再開した。