旧知の人物
「……ディアス?」
俺の表情に変化があったのを認め、ロスラが名を呼んだ。そこで俺は、
「いいこと思いついた」
「いいこと?」
「騎士さん、確認だけど俺以外の人間を引っ張ってもいいのか?」
「え? あ、はい。今回編成している隊では足りないようなので、戦力を集めているという話を聞きました。ディアス様のご推薦であるなら、聞き入れてもらえるかと思います。報酬についても、用意させていただきます」
「ならその辺りをどうするか決めて、改めて話をしに行くよ」
「わかりました。ではお待ちしています」
騎士は去って行く。それを見送った後にロスラは、
「安請け合いしていいのかい?」
「大丈夫。戦士団のことを含め解決する方法を思いついた」
「……どういう妙案を?」
「ただそれを実行に移す前に戦士団の状況を確認しないといけない。もう一度『蒼の王』が拠点にしている屋敷へ赴かないと」
「まさか戦士団を連れていくと?」
「ああ。ただ、さすがに無理矢理引っ張るのはまずいし、どうなっているのかをちゃんと確かめた上で話を持って行く」
「恨まれて追い返される危険性もあるよね?」
「その辺りもしっかりと見極めるさ」
「……わかった。ディアス一人でかい?」
「いや、パメラを含め仲間達全員連れて行く……というわけで、早速行動開始といこう――」
パメラを含めた仲間達へ声を掛けた後、俺は今一度『蒼の王』が拠点にしていた屋敷を訪れる。そこには多少なりとも戦士がいたのだが、混乱の極みといった様子で俺達が来ても反応を示さなかったくらいである。
だが、屋敷へ入った時点で俺達へ声を掛けてくる者が。ややくだびれた印象を与える中年の男性だった。
「どうも、ディアス君」
そしてその人物に俺は見覚えがあった。
「オクトさん?」
「ああ、そうだよ」
――俺が戦士団に入った時にいた先輩の一人である。王都へ拠点を帰る際に戦士団を抜けて以来、顔を合わせていなかったのだが……、
「お久しぶりです」
「ははは、先輩だからといってもう敬う必要もないさ。気さくに話してくれて構わないよ」
……俺としては先輩なのでちょっとばかり抵抗があるのだが、相手がそう言うのなら。
「わかった……えっと、オクトさんも『蒼の王』に所属していたのか?」
「そうだよ……私が大層な名前に見合うような力を持っているとは思えなかったけど、一応戦士団に所属していた身だからね。その辺りの経験を買われて入ったんだが」
「色々あって現在は煙たがられていたと」
「そういうことだね」
ははは、と笑うオクト……俺と似たような感じではあるが、彼の場合追い出されることはなかったようだ。
「屋敷に入ってなんだけど、俺達が来ても問題はなかった? 情報は伝わっているだろ?」
「仕方が無いという諦観が六割、残り四割が混乱だ。憤慨している人はゼロだね。まあ、現在残っている人達はマレイド団長を始め上層部と距離を置いていた人ばっかりだから」
「俺達へ喧嘩を仕掛けた人間で支持した者は全員だったと」
「そういうことになるねえ。まあある意味スッキリして良かったかもしれない」
話は早そうだが……ここで俺はオクトと視線を合わせつつ、
「現在戦士団をとりまとめている人は?」
「残っている団員を調査しているけど、その指示は私がやっているよ」
「オクトさんが?」
「他にやれる人がいなかったからね。とりあえず戦士団の状況はとりまとめて冒険者ギルドへ報告はしないとまずいし……色々あったけれど、団を結成した当時から所属している身としては、それなりに愛着はあるからね。このくらいはやらないと」
「実質、団長的な役割はオクトさんってこと?」
「まあそうなるかな。ははは、私自身は弱いし、頼りないだろうけどね」
……うん、これならいけそうだな。俺は一度ミリアとアルザへ視線を送る。
「俺の判断で動いていいんだよな?」
「ええ、いいわよ」
あっさりと答えたミリアに、小さく頷くアルザ。よし、と俺はオクトへ向き直り、
「オクトさん、頼みが」
「頼み?」
「戦士団がこのまま潰れてしまうのは忍びない……喧嘩をふっかけられた側ではあるけど。この戦士団がガルティアでどういう役割を担っているのかはある程度知っている。だから、再建に手を貸そうかと思ってここに来たんだ」
「ディアスが? 嬉しいけど……本当にいいのかい? 君は被害者だろう?」
「加害者は全員牢屋に入れられたし、残っている戦士は距離を置いていたんだろ? なら関係ない、と俺は言いたい」
「そうか……その申し出は嬉しいよ。ただ、どうやって再建を?」
「プランはあるよ。ただそれをやるには現状の戦士団……その戦力や内情を知らないといけない。当然それは団外へ持ち出せる情報ではないかもしれないけど……」
「なるほど、それを知れば再建プランを提示できるというわけか……ああ、構わないよ。このままではいずれ戦士団は空中分解する。であれば、やる気のあるディアスに協力してもらう方がずっといい――」