来訪する人物
戦いの後、俺達は騎士を呼んで実況検分などをやってもらった。倒れた戦士達は全員お縄について、俺達の方は……魔族由来の武器を戦士団が所持していた事実などから、特にお咎めとかはなかった。
「まあ何か言われたら対処しようと思っていたけどね」
と、さっぱりとした口調でロスラは話す。現在時刻は夜が明けて朝。ロスラは騎士の詰め所に一度顔を出して家に帰ってきて、俺は事の顛末を聞かされている形だ。ちなみにミリアやアルザ、パメラについては部屋で休んでいる。
「戦士団が仕掛けたものだし問題ないとは思っていたけど」
「こちらの言説を受け入れてくれない可能性もあったからな……ま、戦士団の評判がもっとよければ、もう少し面倒なことになっていたかもしれないけど」
結局は人望の差、ということなのだろう。こちら側に俺がいたというのも大きいか。
まあともあれ、騒動を引き起こす戦士団団長が捕まったことにより騒動は解決……と、言いたいところだがさすがにこれでは後味が悪い。
というのも、戦士団の主力とも言うべき人員が軒並み捕まったので『蒼の王』については半ば壊滅状態……残った団員からすれば、一夜にして団長を始め上層部の面々が捕まっていたという状況なので、混乱していることだろう。
なおかつ、戦士団として機能しないのでは冒険者ギルドとしても混乱するに違いない。
「残った戦士団についてはどうするかなあ」
「そこも面倒を見るのかい?」
呆れたように問い掛けるロスラに対し、俺は小さく肩をすくめた。
「だって、壊滅して放っておくでは寝覚めが悪いだろ」
「そうかい?」
「仕事は雑だったし不満だって多かったはずだが、重要な役割を担っていたのは事実のはずだ。ロスラだって冒険者ギルドに薬草の採取依頼くらいはするだろ」
「まあ、そうだね……ふむ、そういう仕事を引き受けてくれなくなってしまうのはよろしくないな」
「だろ? 戦士団がなくなったらなくなったでやりようはあるかもしれないけど、元々あった団が丸ごと消えるとなったら影響も大きい。身から出た錆とはいえ、郷里の騒動だからな。放ってはおけない」
「だとしても、具体的にどうするんだい? まさかディアスが団長になって取り仕切るつもりじゃないだろ?」
「そもそも俺は向いていないしな」
運営手法については、団長や副団長になることはなかったけど仕事を手伝った経験もあるし多少なりともわかっているつもりだが……それをやるとなったら必然的にこのガルティアに腰を落ち着かせることになる。
「一度、戦士団に顔を出してみるか」
「残った団員を集めてどうにかすると?」
「運営できる人間が残っていたら、立て直しはまだできるかもしれない。ま、向こうからちょっかいを掛けてきた形だが、ここまで関わったんだ。とことんやってやるか」
「律儀だねえ」
と、ロスラは半ば呆れたように呟くと、
「まあディアスがやる気ならそれでいいんじゃないかい? 納得いくまでやるといいよ」
「ああ、そうさせてもらう――」
ここでノックの音が。ロスラが返事をすると女性が姿を現し、
「騎士様が来てますよ」
「騎士?」
俺とロスラは互いに顔を見合わせる。まだ何かあるのか……と思いつつ部屋を出て屋敷の入口へ赴くと、渋い顔をした若い騎士が一人、立っていた。
「申し訳ありません、ご依頼したいことが。本来ギルド経由で依頼するところなのですが」
……戦士団が壊滅したという余波が既に来ているのだろうか。
「どうする?」
ロスラが尋ねる。彼はこの町に住んでいるが冒険者ギルドに加入しているわけではない。俺の方はこの町出身ではないが冒険者ギルドに加入している。立場的には双方中途半端なので、ここに直接来たのだろう。
「えっと……それは戦士団に関連すること?」
とりあえず質問してみると騎士は小さく頷いた。
「はい……その、戦士団が所持していた武具について」
あー、その手合いか。
「戦士団が拠点にしていた屋敷を調べたところ、購入した組織について判明しました。そしてこの該当組織、近日中に別所の騎士団が攻撃を仕掛ける予定です」
ほう、なるほど……騎士がなぜ渋い顔をしているのがおおよそ理解した。これはつまり、
「その、騒動に巻き込まれた立場であるディアス様に依頼するのは恐縮なのですが……当該の組織撲滅のために、ご協力いただけないかと」
あれか、組織を打倒するために騎士団は隊を結成しているところだが、戦力的に厳しい。よって縁ができた俺達の所へ話が回ってきたということか。
騎士が難しい顔をしているのはさすがにこの状況下で仕事を頼むのは……という心情が出ているのだろう。まあ確かに、普通なら「喧嘩をふっかけられた――巻き込まれた人間に頼む話じゃないだろ」と言われるのがオチだ。ただ騎士団としては少しでも戦力が補強できると考え、ここに来た。
その相手が俺なら、是非ともということだろうな……ロスラは俺の言葉を待つ構えようであり、こちらは……少し悩んでいると、あることを閃いた。