技法の実践
俺とアルザはロスラの屋敷へ戻ってまずは状況について報告。すると、
「相手はずいぶんと好戦的だねえ」
そんなのんきな感想がロスラの口から漏れた。
「ディアスやアルザのことを獲物とでも認定して戦う気でいるみたいだし……それにしても、よほど自信があるみたいだね」
「アルザが発見した、魔族関係の何かがそうさせているのかもしれないな」
「ディアス、確認だけどそういうのがあるから……と、役人へ訴えることはしないのかい?」
「相手は俺達のことを監視しているっぽいからな。役所にでも行ったら相手だって相応に動くだろ……俺達は別に攻撃されても平気だけど、一般の人にまで被害が広がる危険性が出てくるし」
「なるほど、僕らの間だけで片付けたいと」
「念のため確認だが、ロスラはいいんだな?」
「僕は別に構わないよ。それに」
と、ロスラの顔に怪しい笑みがこぼれる。
「色々と試したいこともあるし」
「こっちから喧嘩を売るような真似はやめてくれよ……さて、後はミリアだけだが……まだ帰ってきていないんだよな?」
「二人は不在の間に一度戻ってきたよ。パメラと引き続き修練中らしい」
「そうか……問題はミリアについてだけど……」
「彼女は別所に逃がすかい?」
「いや、俺の仲間のことは相手に知られていると考えた方がいい……孤立させるのはまずいだろうな。今はパメラが近くにいるし、もし狙われても対処はできるだろうし問題はないけど……ふむ、パメラの方はどうするか」
「場合によっては彼女も巻き込まれる危険性があるね」
「事情だけは説明しておくか。それで手を貸すと表明すれば助けてもらおう」
「彼女も、か」
「屋敷内にいるお手伝いさんとかの護衛だって必要だろ?」
「そこはこちらで対処するよ……パメラが協力すると言ったら、今日のところは屋敷に泊まってもらおうか」
「ああ、それがよさそうだ」
――その後、ミリアが戻ってくる。ついでにパメラも同行しており、今日の修行は終わりということでお茶でもしようということになったらしい。
「パメラ、ミリアについてはどうだ?」
「飲み込みも早いし技法については一通り習得できた」
「ずいぶん早いな」
「それだけミリアの筋がいいってことだよ」
そんな言葉にミリアは照れた表情を浮かべる……うん、順調みたいだな。
「で、ミリア。申し訳ないんだがちょっと騒動が起きた。パメラも事情は知っておいてくれ――」
一通り説明すると……まず反応したのがパメラで、憤慨し始めた。
「好き放題やっているのに飽き足らず、まさか喧嘩をふっかけるなんて」
「下手すると今夜くらいに屋敷に来るかもしれない。ロスラは構わないと言っているし、もし来たら迎撃するつもりではいるんだが……」
「あたしも手を貸すよ」
「そう言ってもらえるのはありがたいけど、いいのか?」
「ミリアと一緒に修行しているわけだし、相手としたらあたしも当事者でしょ」
「悪いな……ミリア、そういうわけだから今日のところは屋敷にいてもらえないか?」
「ええ、いいけれど……私は、どうすればいいかしら?」
戦ってもらうか、それともロスラの護衛役とかにするべきか……と悩んでいると、パメラが発言した。
「ねえねえ兄ちゃん、せっかくだからミリアに戦ってもらおうよ」
「急にどうした?」
「技法は身につけるだけじゃない。ちゃんと実践を積まないといざという時に真価を発揮しないよ」
……なるほど、戦士相手に技法の実践というわけか。問題は敵の力量についてだけど……まあ、強化魔法などを利用してカバーできるか。
「ミリアが構わなければそれでいいけど」
「……私で、大丈夫なの?」
「相手は魔族由来の武器を持っているのは間違いなさそうだし、実際にそれを利用するだろう。ただまあ、魔族由来だとしても所詮は地方の戦士団で購入できるレベルの物だ。その威力なんて高が知れているし、ミリアが後れを取ることはないだろ」
「そうだね」
と、パメラは自信ありげに告げる。
「本物の魔族であるミリアなら余裕でしょ」
「ミリア、話したのか?」
「鍛錬中に、ね。剣を振っている間に誤魔化す魔法が途切れてしまって、気付かれたみたい」
「あたしは魔族だからといって態度を変えるつもりはないし」
「パメラもなかなか豪胆な性格してるよな……なら、ミリアには早速修行の成果を見せてもらおうか」
ゴクリ、とミリアは一度唾を飲み込む。そこで俺は彼女の緊張を解きほぐすように、
「ま、そう心配はいらないさ。今回の戦いについて言えば、ちゃんと修行の成果を発揮してくれれば成敗できるはずだ」
そう言った後、俺はミリアとパメラを一瞥し、
「まずは作戦会議といこうか。夜、敵がやってきた場合……どう対処するかについては協議しておいた方がいい。ロスラやアルザを交えて話をして……しっかり打ち合わせはしておこう――」