犯罪組織
戦士の案内はずいぶんと淡々としたもので、なおかつ屋敷内は正直上手に使われているとはお世辞にも言いがたく……ここで戦士団の運営をしているというよりは、単に間借りして暮らしていると言い換えた方が良さそうだった。
まあ戦士団の評判を考えたらこんな状況も当然かと思うところだが……少しして一通り案内が終わると、
「これで終わりだが、どうする?」
戦士からの無愛想な問い掛け。屋敷内を見て回ったけど、正直怪しい物は特にない……というより、ヤバそうな物があるにしても、この屋敷の中にはないな。
「あー、そうだな。いくつか質問がある。答えられる範囲で構わないが」
「何だ?」
「仕事の割り振りとかはどうしているんだ? 戦士団として請け負うケースの場合、誰が行くかとか決めるだろ?」
「仕事の内容と、請け負った際にいた戦士で動ける人間を採用している」
あー、それが仕事が雑な理由かな? 戦士団の名前で請け負う場合、その仕事ができる力量を持つ戦士などを判別し動かさないといけない。でなければ仕事が失敗する可能性があるためだ。
個人で請け負うなら自己責任で終わるけど、戦士団で受けた仕事を失敗すると戦士団の評判に関わってくるから、この辺りはちゃんとしないとまずい……人数がいる以上は確実にこなして欲しいもの。外部から見たらどうしてちゃんとやってもらえないのかと不満に思うわけだ。
例えば魔物討伐を請け負った場合……報酬面や内容によって誰を行かせるのかを決める。要はマネジメント能力がないと、仕事一つ請け負って完遂するのも大変だし、ちゃんと稼ぎにならないのだ。
けど、この戦士団はそれをやっている気配がない……たぶん仕事を受けたからその場にいた戦士の誰かが赴く、で終わりなのだろう。これでは仕事内容が雑になるのも当然と言える。
「わかった、ありがとう……さて、団長さんはもう出てくる気配はなさそうだし、お暇させてもらってもいいか?」
「ああ」
「ん、それじゃあ団長さんによろしく言っておいてくれ」
俺とアルザは屋敷を出る。そして帰り道、
「アルザ、何か気付いたことはあるか?」
「屋敷の端にある倉庫に異様な気配があったね」
彼女はめざとく怪しい場所を見つけていた。
「気配からすると、明らかに魔族関係っぽい」
「武具の類いかな?」
「その可能性が高そう……魔族と手を組んでいるってこと?」
「そうとは言い切れないな。例えば魔族由来の武具……これは闇市とかで売られているケースもある」
「誰が売ってるの? それ?」
「犯罪組織だよ」
裏組織――そういう存在が元締めと鳴って、危険な武器とかが売られているケースがある。
危険な武器、というのは例を挙げるのであれば生命力を吸収する剣とかだ。剣を持ち魔力を注ぎ込むと、自分の魔力が一気に剣へと吸われていき、力が大きく増幅する……剣に吸われるというのがポイントであり、場合によっては体力などすら吸われて身動きできなくなるとかもある。
寿命を縮めてしまうような危険な物……こういった武具はさすがに普通の武器屋では売られていないし、魔法道具が売っている店でも販売されない。具体的に法律があるわけではないのだが、そうした武具をどのようにして手に入れたのか、という点で国からマークされてしまう。店の場合は調査が入り、犯罪組織と繋がりがあったなら強制的に店は取り潰しになる。
で、今回の場合は……そうした武具があるのなら、犯罪組織と関わりがある危険性がある。密かに忍び込んで売買契約の証拠とかを手に入れたら、団長なんかを追い出す格好の材料にはなるのだが……。
「ねえディアス」
「どうした?」
「戦士団はどう動くと思う? 明らかに敵意むき出しだったけど」
「あの調子だと、嫌がらせの一つや二つ来そうなものだけど……もしかすると、俺達滞在しているロスラの屋敷へ殴り込みに来る可能性もあるな」
もしそうなった場合……ロスラ自身は別に構わないという態度であったため、まあそれでもいいかという感じではあるのだが。
「まあ、なんにせよ」
俺は空を見上げつつ戦士団について言及する。
「相手の行動次第だな……もし向こうから突っかかってくるのであれば容赦はしない。攻撃してきた輩を全員とっ捕まえて詰め所にでも渡せばそれで終わりだが……戦士団は壊滅状態になるな」
「自業自得じゃない?」
「確かにそうだと言える……が、ガルティアという町において貴重な戦力であるのは間違いない。もし戦闘して捕まえるのであれば、相応の対策は必要になってくるだろうな」
「そこまで面倒を見るの?」
「アルザがそう言うのは納得できるよ……ま、どうするかについては相手の出方次第ではあるけど、こちらはどうやって動くのか、その方策くらいは決めておいて損はなさそうだな――」