黒い噂
「ロスラ、その戦士団についてだが……」
「ディアス、質問には答えるけれど首を突っ込むのかい?」
彼の問い掛けに対し俺は一時沈黙し、
「とりあえず情報くらいは集めようと思っただけだ。もしかすると、俺が滞在している間に戦士団から干渉してくる可能性もあるし、その状況下で事情を知らない、となったら面倒事になるかもしれないだろ」
「ふむ、確かにそうか」
「無茶やっているからもの申したい面もあるけどさ……かといって、現状では犯罪に手を染めているような雰囲気はなさそうだし――」
「いや」
と、ロスラは俺へ向け突如手をかざした。
「実を言うと、色々と黒い噂も」
「おいおい……まさか魔族と手を組んでいるなんて話じゃないだろうな?」
「さすがにそこまでは……噂もどこまで信憑性があるかわかったものじゃないし、僕としてはコメントしないけど」
「影響力のある戦士団である以上、そういう噂話もあるってことか……うーん、どうするか」
とはいえ、無茶なやり方で運営しているとはいえガルティアを本拠とする戦士団であるのは間違いないし……と、ここでロスラは苦笑した。
「まさか戦士団について調べることになるとは」
「わかる範囲で情報集めしているだけだよ」
「信用ならないけど……まあ、気になるなら納得がいくまで調べてもいいんじゃないかい? ディアスなら、色々語ってくれる人もいるだろうし」
「俺なら?」
問い返すとロスラは小さく頷き、
「ディアスはここで暮らしていた痕跡が消えつつあると言っていたけど、ディアスを知っている人だって残っている。そういう人と顔を合わせて話をしたら、情報は手に入ると思うよ――」
ロスラのアドバイスに従い、俺は早速行動を開始した。記憶を頼りによく立ち寄っていた店などを訪れると……俺のことを憶えている人間と結構出くわすこととなった。
「魔王との戦い、話には聞いているぜ」
と、雑貨屋の男性店主が俺へ言う。彼は俺と同じ孤児で、高齢で店を閉める気でいた人物から雑貨店を譲り受けたらしい。
「で、ガルティアに拠点を置くのか?」
「たぶんそうはならないんだけど……ちょっと情報収集をしていただな」
「情報?」
「戦士団『蒼の王』についてだ」
俺の発言に対し、店主は明らかに嫌そうな顔をした。
「あいつらかあ……結成当初は良かったんだけどなあ」
「色々と噂は聞いているんだが……場合によってはガルティアに滞在中干渉してくる可能性があると思って」
「なるほどな。正直、最近の活動はあんまり良くないぜ?」
と、彼は憶測を含めて色々と喋ったのだが……まあ出るわ出るわ。仕事に対し手を抜いているだけならまだしも、魔族と結託して何かしているのではないか、なんて噂まであるらしい。
その後、俺は別所で顔見知りの人間と出会い話をする……のだが、そういう人とは割と簡単に会うことができた。確かにガルティアは俺が暮らしていた時と大きく様変わりしている。けれど、元々住んでいた人はロスラの言うとおり結構残っている……改めて、ここが俺の故郷なのだと実感することができた。
で、肝心の『蒼の王』に関する情報だが、基本的にネガティブな情報ばかりである。共通しているのは自分達が仕事を独占している。にも関わらず手を抜いているということ。そこに加えて魔族との黒い噂……なのだが、さすがにこれは眉唾だと思っている。
というのも、地方に存在する戦士団と手を組むメリットが魔族側に皆無だと思ったためだ。さすがに戦士団の一件と反魔王同盟を結びつけるようなものは何もないし、考えすぎだろう。
というわけで、色々と情報を集めた後にロスラの屋敷へ戻ってくる……そこで彼と顔を合わせて改めて話をする。
「俺が出張って解決するような問題でもなさそうだよな……ただ、放置しておくのも忍びない」
「彼らが不正でもしていれば一発で決着をつけられるけどね」
「……戦士団のあら探しをしているようで嫌だけど、一応調べてみるか? もう少し深く情報を漁れば何か出てくるかもしれないし」
「現在所属している元『暁の扉』の戦士に話を通してみては?」
「さすがに彼が何をされるかわかったものじゃないからなあ……ま、今はやめとくよ。それで最大の問題は、戦士団のことについてどうすればいいのかという明瞭な答えがないことだな」
「仕事で手を抜いているとかの原因は、たぶん戦士団の活動方針を決めている人間……つまり団長とか副団長とかが原因だと思うけれど」
「頭をすげ替えて解決するような話かと言われると、微妙だし」
「それもそうだね……もどかしい話だな。解決しないと町の人々が抱えている問題は解消されない。けれど、ただ単純に戦士団を成敗して終わりというわけにもいかない」
「……なあロスラ。この町に騎士はいるのか?」
「もちろん、派遣された兵士とか騎士はいるよ。ただ、お世辞にも強いとは言えないな。魔物討伐を戦士団に頼っている時点でわかると思うけど」
「戦士団の代わりとなる組織があれば、多少なりとも戦士団側も考えを改めそうな気がするけど、噂話の内容を考えるとそれすら邪魔立てしそうな雰囲気なんだよな」
さて、どうするか……と思っていた時、部屋にノックの音が舞い込んだ。