町の戦士団
「その、このガルティアで大きな戦士団は俺が今所属している団だけらしく」
「なるほど、そっぽ向かれると仕事をこなしてくれなくなると。それを利用してギルド側が文句を言えないようにしているのか」
仕事を独占するというやり方でも反発されないのはそれが理由……ただ、聞くからに上納金やら仕事の独占やらで、ロクな戦士団じゃないな。
「むしろガルティアから離れた方が良くないか?」
「それも考えたんですけど……その、懇意にしてくれた人とかいるので」
情で縛っているわけか。それがこの町から離れられないよう故意にやっているのか、それともそこは善意で戦士団の上層部が利用しているだけなのか。
勘だけど、後者っぽい気がする。目の前の戦士は利発で状況分析も上手かった。それを踏まえるとわざと情に訴えるやり方は通用しなさそうだし。
「……ふむ、故郷でそれなりに世話になっていた冒険者ギルドにまで迷惑掛けているという点は、あまり感心しないな」
まあこの建物だって俺が王都へ行ってから建て替えた物だし、正直ギルドに思い入れも何もないのだが……。
「ディアスさん?」
「その戦士団がいる場所を教えてもらえないか?」
「何をするんですか?」
戦士の問い掛けに俺は笑みを浮かべ、
「とりあえず情報集めだな。場合によっては本拠へ挨拶へ行くかもしれないし、知っておいて損はないはずだ――」
俺は戦士から情報をもらって、一度ロスラの屋敷へ戻ってくる。そして戦士団に関して尋ねると、
「名前は『蒼の王』といって、ガルティアを地盤にして色々と活動している戦士団だけど……正直、評判は良くないね」
「名前に王、って入る時点で結構あれだな……」
「自分達は戦士団の一番を目指す、みたいな意味合いだったらしいけど、今はこのガルティアで好き勝手に振る舞っているみたいな感じだから揶揄されているかな」
「評判が良くないってことは、俺が話した内容が理由で?」
「それもあるし、ガルティアで暮らす人に迷惑掛けている面もある。例えばディアスが訪れた剣術道場」
「ほう」
「自分達は町の治安を維持する者達だ。そのためには剣術習得も必要だとか言って、料金を値切ってきたり新人の戦士を無理矢理押しつけたりとか」
「おいおい……」
「あるいは、単純に仕事が雑とかね。複数体の魔物討伐の依頼を受けたのに、実際は一体しか倒していなかったりとか」
「他に戦士団がいないことで、好き勝手に振る舞っている感じか?」
「まあそんなところ。冒険者ギルドとしても良い顔はしていないし、実際別に戦士団が立ち上がろうとしているみたいだけど、色々妨害しているみたいだね」
「……そういう嫌がらせをする戦士団は王都にだっているけど、やっていることは結構無茶苦茶だな」
まあ基本、戦士団なんてものは無法者の集まりであり、国と仕事をするようになった『暁の扉』の方がおかしいのかもしれないけど……基本、戦士団は所属していない人には迷惑を掛けないよう配慮くらいはする。何かしらルールが存在しているわけではないが、場合によっては一緒に仕事をすることがあるのだ。それに冒険者ギルドからにらまれたら面倒だし、内情はともかくとして基本対外的には当たり障りがないようにはする。
けれどどうやら『蒼の王』という戦士団は違うらしい。
「この戦士団の発祥は、群れとして現れた魔物を討伐しようとしたことからだった」
と、ロスラは俺へ解説を始めた。
「開拓を進めていた当初は戦士も集まっていたけど、城壁が意味を成さなくなったくらいの時期から次第に冒険者が来なくなってしまった……魔物を戦える人員が減少傾向にあり、開拓が終わって魔物が発生することが少なくなってからそれに拍車が掛かった」
「そうした中で群れが出現し、一致団結して戦おうとしたわけか」
「そうだ。当初、その試みは上手くいった。戦士団は故郷を守るために結成されて、人々のために戦った。結果的に魔物の群れは駆逐され、戦士団はちょっとした英雄扱いになった……まあ、その結果が今だけど」
「増長したってことか?」
「冒険者ギルド側も渡りに船で、優先的に仕事を回すようになったのもまずかったんだろうね。結果として支援者なんかも現れて、戦士団の団長なんかは豪快に酒盛りなんかをやるようになった……魔物退治なんかそっちのけでね」
「なるほどな……そんなことになったら自意識が肥大しても仕方がないな」
「でも仕事をしなくなったらそっぽを向かれるだろ? そこで団長達は考えた。戦士団の運営が必要だと称して支援者などから金をもらいつつ、さらには新たに加入してきた戦士に対し仕事を融通する代わりに上納金という名目で金をせびるようになった……体裁を整えるために屋敷を借りて、現在はこの町で唯一の戦士団として、見た目だけは豪勢になっている」
「まさかそんなことになっているとはなあ……そういう話、ロスラから聞いたことなかったな」
「ディアスには関係のない話だからね。それに、戦士団に所属していたディアスとしては、他の戦士団にちょっかいを掛けるというのはあまり好ましくはないだろ?」
「まあ、な」
戦士団同士で喧嘩するとなったら面倒だからな……俺は腕組みをして思考しつつ、ロスラへさらに質問を重ねた。