故郷のギルドにて
「あー、ただまあ安住の地を決める前にやらないといけないこともあるけどな」
続けざまに行った発言に対し、ロスラは小首を傾げた。
「それは?」
「ロスラに預かっている荷物の処理だよ」
「ああ、それについてか。住む場所が決まったら引き取りに来ればいいじゃないか」
「それでいいのか?」
「少なくとも僕はこの町に骨を埋める気でいる。生き方を考えればディアスよりもずっと長生きするだろうから、気長に待っているよ。もしディアスが引き取りにこなければ、博物館にでも寄贈するさ。ほら、魔王を倒した英傑の一人にまつわる品……博物館側も悪い気はしないだろ?」
「それ、一度見に行ったけど生きている間の展示はやめてもらいたいもんだな……」
俺は苦笑した後、ロスラへ改めて告げる。
「それじゃあ俺は……どうするかな」
「戦士団を抜けても戦い続きだったんだ。他の仲間も好きにやっているようだし、ここは休めばいいんじゃないかい? 宿泊費もタダだしね」
「長期間滞在するわけには……」
「三人世話するくらいなら問題ないさ。あ、そういえばアルザについては大食いだったっけ? まあそれでも、毎日無茶しなければ問題はないかな」
「……いいのか?」
「他ならぬ友人とその客人だ。これ見えてもそれなりに蓄えがあるからね。平気さ」
笑みを浮かべるロスラ。その言葉に、俺は少し考えた後……小さく頷いたのだった。
さて、自分探しという旅の再開というわけだが仲間については……ミリアは現在パメラに任せているし、アルザも気の赴くままに散策している。二人については俺から何かしなくても問題はないだろう。
なら俺は……改めて町中を歩きながら周囲を見回してみるが、結局どうすればいいのか思いつかなかった。エーナに以前言われたことがあるように、俺は結局自分探しという言葉に対し憧れに近い感情を抱き、それをすることで戦士以外の自分を見つけられる……そんな風に思っていたのだが、
「戦士としての自分が大きすぎるんだよな……」
結局、俺は戦いしかないのだろうか。そんな考えがよぎった時、俺の足は冒険者ギルドへと向かっていた。
扉を開けて掲示板などを覗く。それなりに仕事はあるが、魔物討伐を始めとしたものでさすがに大がかりな依頼というのはない。
ガルティアの周辺に存在する村などからも依頼は来ている。ただ冒険者の数は決して多くない。もしかすると街道から王都などに足を運んでいるのかもしれない。
「俺が戦士として活動し始めた時、結構活気があったんだけどな」
でもまあ、それもまた過去の話か……感傷的になったのかわからないが、仕事を受ける気はなかったのでこのまま立ち去ろうとした――その時だった。
「あ、ディアスさん」
冒険者の一人が声を上げた。振り返るとそこには、
「あれ? どうしてここにいるんだ?」
相手は黒髪の男性だったのだが、俺が所属していた『暁の扉』に籍を置いている戦士だった。
「久しぶり……というわけでもないか。王都じゃなくてここに出稼ぎか?」
「あ、いえ……『暁の扉』を抜けて活動しているんです」
聞けば、魔王との戦いの後に脱退したらしい。そういえば俺が抜けてから脱退者が続出しはずで、彼はその際に抜けた一人らしい。
「現在はガルティアに本拠を構える戦士団に」
「へえ、そうなのか」
まだそういう団があったとは……と思っていると、俺は彼の表情がずいぶんと暗いことに気付いた。
「どうしたんだ?」
「……正直、俺は『暁の扉』にしか所属したことがなかったので、これが普通なのかと疑問に思っているんですが、その……」
「現在所属している戦士団について?」
「はい。無茶なノルマを課していて」
「ノルマ?」
「上納金のノルマです」
「上納金?」
なにそれ? 疑問に思い尋ねると……なんというか、眉をひそめる話ばかりだった。
彼が所属する戦士団は所属した場合、運営費として結構な額を徴収されるらしい。間借りしている拠点の屋敷などの管理費とかそういうのらしいけど、彼にその金額を聞いたら……困惑するくらい高額だった。
「いや、戦士団に所属する以上、名を貸すから運営費をくれというパターンはあるけど……いくらなんでも高いぞ」
「『暁の扉』にそういうのはありませんでしたよね?」
「国から仕事をもらっていることで、運営費を出してもらっていたからな。ただ、その代わり国と取引するのだから厳格さが求められる。例えばの話、問題行動ばかり起こすような戦士が所属していたら、下手すると国から手を切られたりするから、品格とか求められるようになる」
「そうだったんですか」
彼の実力はそれなりにあるし、だからこそスカウトされたのかもしれないが……、
「なんか嫌な予感がするな……もしかして冒険者ギルドに人が少ないのも戦士団が関係しているのか?」
「そのようです。掲示板に貼られている仕事について、勝手に持って行くとかしているみたいで」
それ、ルール違反なんだけど……ギルド側は何もしていないのか? 疑問に思った時、戦士からさらなる言葉が飛んできた。