彼の居場所
数日後、俺はロスラから情報収集の結果を聞いた。
「結論から言うと、さすがに痕跡を辿ることはできなかったよ」
「そうか」
まあこれについてはわかっていたことなので、別に残念がるわけでもない。
「ちなみにディアスは、この町を見て回って何か思い出したこととかはある?」
「色々巡ってみたけど、アヴィンがいた頃から様変わりしているせいもあってほとんど思い出せなかったな……ま、戦士となって思い出すことが少なくなっていたにも関わらず、今更何かあるからと故郷へ戻ってくればすんなり記憶が蘇る……なんて、甘い話じゃなかっただけさ」
その言葉でロスラは頷き、
「なら、残念だけどこの話は終わりだね……ディアスはどうするんだい?」
「後は国に任せることにして、俺は本来の目的に立ち返るかな」
「自分探しか……具体的には何をするつもり?」
「それをこれから考えるんだけど……故郷に戻って散策でもすれば色々と思い浮かぶことだってあるとか思っていたが、これもアヴィンのことと同様にそう甘くはなかった」
まあ、別に急いでいるわけでもないし、ゆっくりやればいい。
「……ディアス、一つ聞きたいのだけど」
「ああ、どうした?」
「ディアスなりに旅を続け、最終的にどこかへ腰を落ち着かせるとしたら……ガルティアは該当するのかい?」
「どうだろうなあ……ここは俺の故郷で間違いないけど、かといって未練があるわけでもないんだよな。数日散策してみて、そこは実感したよ。ここに俺の居場所はないって」
「そうか」
ロスラはその発言に対し、淡々とした返事で応じた。それと共に俺もまた、さっぱりとした口調だった。
色々な思い出があるけれど、特別執着はなかった。ただまあ、彼にとっては友人である以上、居場所はないと断言されるのは微妙かもしれないけど――
「先に言っておくけど」
と、ロスラは突如俺へ語り始める。
「僕はディアスの発言を気にしているわけじゃないからね」
「居場所はない、という発言?」
「ああ。むしろ戦士団として戦い続けたディアスは、そこが居場所なんじゃないかって思っていた」
……まあ確かに、戦士団『暁の扉』の一員として魔王とまで戦ったそれを踏まえればロスラがそう語るのも無理はない。
もし戦士団に執着していたら、俺は団長であったロイドから抜けるよう言われた時に拒絶していただろう。でもそうはならなかった……けれど、だからといってあの場所は自分の居場所ではないと否定するつもりもない。人生の半分以上をあの場所で俺は過ごした以上、思い入れは間違いなくある。
「……まあ、魔王討伐というのを果たしたことで、もう終わりでいいかと思った面はあるよ」
と、俺はロスラへ語り出す。
「それに、戦士として目標があったわけじゃないからな。別に団の中で成り上がろうという気はなかったし」
「後悔はしていないのかい?」
「別に。今の旅の方がかなり気楽ではあるし」
「そうか。ディアスがそう言うのなら……ただ、いつまでフラフラするつもりなのか気になってさ」
「……旅の終着点は特に決めていないんだよな。ただ、そうだな……やっぱり安住の地を見つける、というのは一つの目標になるかもしれないな」
「安住、ねえ。田舎にでも家を買って悠々自適に暮らすかい?」
「性に合わないだろうな、それ」
「それにディアスがそこにいるというのがすぐにバレて、聖王国から召集が掛かったりするんじゃないかい?」
「ああ、それはあり得そうだな。で、いつまで経っても戦場に舞い戻ると」
俺とロスラは二人して笑う……と、俺はやれやれといった風に肩をすくめ、
「実を言うと、剣術道場とかを見学してみて、誰かを指導するような立場になる、という選択肢も頭をよぎったんだ」
「指導か……戦士相手に強化魔法を始めとした、実践的な魔法を教える、といったところかな?」
「ああ。魔王が潰えまだ魔族は攻撃を仕掛けているけど、そうした騒動が収まれば戦争くらい大規模な戦いは収まる……とは思うけど、魔物なんかとは戦い続けなければならない。だから、俺なりに自衛の手段とかを教える役割とかを考えた」
「なるほど。それで、どう思った?」
「微妙かな、と率直に思った。別に俺の技法を誰かに教えるということは構わないんだが……俺の魔法そのものも特殊だし、何だったら地味だからな。王都にいる魔術師とかに教わった方がいい、と考えて門下生が一人も来ない可能性がありそうだな」
「魔王討伐を果たしたネームバリューがあればいけそうだけどねえ……ただその顔は、あんまり乗り気じゃなさそうだ」
「そうだな……俺に指導能力があるのかはともかくとして、向いてなさそうかもな、と漠然と感じた」
「まだまだ目指すべき場所は先みたいだね」
その言葉と共に、俺は小さく頷いたのだった。