幕間:反魔王同盟
「戦士団に所属し活動する二人についてだが……今後も反魔王同盟に所属する魔族と戦う場合、戦士団の力を借りる必要性が出てくるだろう」
「望むところよ」
セリーナがクラウスの発言に応じ、答えた。
「戦士団として魔族と戦うよう備えていて欲しい、ということでいいの?」
「そこについてはイエスなのだが、問題はセリーナ自身のことだ」
「私?」
「王都襲撃については軍同士の戦いであったため騎士達で対応できたが、冒険者ギルド襲撃については、たとえ騎士が駆けつけたとしても解決は難しかっただろう。私が言いたいのは今後、戦士団単位ではなく個人的な依頼で仕事を回す可能性がある」
「兵力ではなく、純粋に武力の高い人物が必要だってこと?」
「そう解釈してもらっていい」
と、返答したところでシュウラがクラウスへ言及する。
「私の方はいいのですか?」
「シュウラは団長補佐だが、好き勝手に動いているし、わざわざ戦士団に許可を取る必要などなさそうだというのが見解だ」
「ははは、確かにそうですね」
あっさりと認めるシュウラ。そんな態度にクラウスは嘆息しつつ、
「この場にはロイド君もいるから、確認しておきたかった。国側として『暁の扉』ではなく、セリーナに依頼を行う……そういう可能性があるということを留意してもらいたい」
「こちらは構いません」
ロイドはクラウスの要求に同意した。
「必要であればどのような形でも動く、というのが戦士団ですから」
「ありがたい……セリーナ、以前話したように国と仕事をすれば相応の報酬……君の望むものが得られると約束しよう」
「そこまで言わなくてもいいわよ……今の私は戦士。頼まれれば応じるわ」
「わかった……さて、現状把握と情報共有についてはこれで良いだろう。では次の議題だ」
「まだあるの?」
セリーナの問いにクラウスは苦笑し、
「色々と確認しておきたいことがあるのさ……現在、国側は反魔王同盟とやらに警戒を示し、対応策に乗り出しているわけだが……冒険者ギルドにおける副会長の件もある。もしかすると、身内に裏切り者がいるかもしれない」
「かも、ではなくいるでしょうね」
シュウラが断定する。エーナもまたそれに同調し、
「私もそうだと思う……もちろん、根拠はないけど……」
「二人の考えは正しいだろう。魔界へ情報を流している人間がどこかにいる……そしてそれは反魔王同盟に関係している存在だ」
「どうしてそう言い切れるの?」
エーナが問い返すとクラウスは肩をすくめ、
「簡単な話だ。もし魔王がスパイを送り込んでいれば、私達英傑の能力だって把握していたに違いない。そうだとしたら私達は負けていた……けれど勝利した以上、魔王はこちらの情報を事細かに保有していたわけではないと考えられる」
「ああ、そういうことか……クラウスは反魔王同盟と関連する人間がいると考えているわけか」
「そうだな。ディアスがもたらした情報を踏まえると、そうした内通者から得られた情報を基に、魔王を人間界に侵攻させた……場合によっては自分達の主君である魔王を滅ぼすために、人間を利用したなんて可能性すら浮かび上がってくる」
深刻な話だった――が、もしそういう筋書きであれば、現状にも納得がいってしまうとエーナは感じた。
なぜか。王都襲撃については周到な準備が行われた上での攻撃だった。これはつまり、魔王が滅ぶことを想定し、準備をしてきたためと考えられないか――
「……敵の目的がどうあれ」
ここでシュウラが声を発する。
「現在のところ、敵の侵攻は食い止めている……それはつまり、敵の目論見を潰していることに他ならない」
「ああ、そこは間違いないだろう」
と、クラウスは頷いた。
「敵としては万全の準備を行った作戦だったかもしれないが、結果的に人間側が勝利した。様々な要因があるとは思うのだが……」
――エーナは一番の理由がディアスであると思った。王都襲撃についてはいち早く総大将の動きをつかんだことで王都内に侵入されることはなかった。冒険者ギルド本部の騒動についても、彼とその仲間がいたからこそ、円滑に事が進み魔族を撃破できた。
クラウスもまた、同じ事を思っているはずだが――セリーナがいるためか口には出さない。
「……人間側に内通者がいると考えた場合でも」
クラウスはさらに話を進める。
「ここにいる君達は信頼している」
「光栄です」
シュウラが述べる。その声音にどこか胡散臭さを漂わせているのは、間違いなくわざとだろう。そんな態度にクラウスは笑みを浮かべつつ、
「君達の力をさらに借りる可能性もあるため、戦闘準備についてはしっかりと頼みたい。そして、得た情報……魔王に関するものと、魔族アヴィンに関するもの。この二つについては、しっかり調査は進めていく。けれどもし今後、何か魔族に関連する情報を得たら、些細なものでも連絡を頼む――」