幕間:魔王
「さて、待たせてしまって申し訳ない」
クラウスが先んじて口を開く。場所は王城にある会議室。参加者の人数を考えればずいぶんと広い上に円卓が置かれた部屋であり、高い天井などを含めてエーナは居心地の悪さを自覚しつつ席に着く。
今回の話し合い――その参加者はクラウスと英傑であるシュウラ、セリーナ、そして『暁の扉』の団長であるロイドとエーナ。クラウスによると他にも英傑を集めたいらしいのだが、さすがに四人が限界だったらしい。
「冒険者ギルド本部……その事件に関する報告を含め、情報交換をしたい。また、可能であれば魔界に関する情報についても確認しようか」
「ではまず手始めに」
と、クラウスに続いて発言したのはシュウラ。
「王城側は今回の事件、どう考えているのですか?」
「……先の王都襲撃事件から続けてのものであるため、国側はかなり重く見ている。なおかつ反魔王同盟……そうした存在が人間界に入り込み謀略を企てているということも、非常に厄介だと考え対応策に追われているところだ」
「魔王との戦いからそれほど経過していませんが、動いてはもらえると」
「というより魔族との戦い……それは魔王を滅ぼしたことで終わったと当初考えていたが、まだ続きがあったということなのだろう」
クラウスが語るとエーナを含めこの場にいる者達の表情が硬くなる。
「国としては魔王が滅んだことで軍縮も検討に入っていたのだが……そういう意見は一切なくなった。反魔王同盟の一件が片付くまでは当面、忙しくなるだろう」
「その同盟について、何かわかっていることはあるんですか?」
問い掛けたのはロイド。クラウスは彼へ視線を送りつつ、
「残念ながら、現時点では不明だ。とっかかりもない状態でね。この場にいる面々が何か知っているかもしれないと少々期待していたのだが」
「こちらは何もわかりませんね。聖王国が懇意にしている魔族もいるでしょう? その方々からの情報は?」
「現在確認しているところだが、良い返事はもらえていない。おそらく人間界にいる魔族では知ることのできなかった情報、ということだろう。そもそも秘密裏に動いていたことから、情報を得るのは厳しそうだ……今後反魔王同盟に所属している魔族と交戦した際、解明されていくだろうな」
「戦うことでしか情報は得られないと」
「こちらは敵の目的すらわかっていない状況だからな。それは仕方がない……ま、敵の出方次第だろうな」
やれやれといった様子でクラウスは語る――と、ここでエーナが口を開いた。
「それに関連するかどうかわからないけど、一つ情報が」
「ほう? 何か新しい手がかりが?」
――エーナはディアスからもらった情報を口にした。魔王自身、人間界に攻め寄せたのは謀略によるもの。そして、人間界にいた魔族――アヴィンという存在について。二つが関連しているのかは不明だが、魔王という存在に何かがあるかもしれない――そんな一連の内容を聞いたクラウスは、口元に手を当てつつ考え込む。
「大変興味深い内容だな……現時点で関連性は不明だが、反魔王同盟……魔王と敵対する存在が動いていることを考えても、何か魔王という存在そのものに人間が知らない何かがある、という可能性はありそうだ」
「その真相を究明したら、何かわかる?」
「どうだろうな。とはいえ、魔王という存在……それについて調べることは、確かに有益な情報になり得るかもしれない。人間は魔王を恐怖の存在として認識しているが、それ以上のことについては実のところよくわかっていない。一般的な魔王のイメージは、どちらかというと人間自身が生み出した創作などに基づいているケースもあるくらいだ」
エーナは小さく頷いた。彼女自身、魔王と相対するまでに色々なイメージが思い浮かんでいた。けれど、本物の魔王は――それこそ、あらゆる予想や考えなどを一蹴するような存在だった。
「ふむ、そうだな……色々と想像の余地はあるが、ひとまずここまでとしよう。まずはここに集めってもらった本来の目的……冒険者ギルドの騒動について、改めて報告を頼む」
エーナは首肯し、語り始める。それと共に、一つ気付くことがある。
ディアスという名前を聞くたびに、セリーナの表情が少しばかり変化する。ただ顔をしかめているというわけではない。感情を読み取ることはできないが、少なくとも何かしら思うところがあるのは間違いなさそうだった。
やがて一通り説明を終えると、クラウスはエーナへ「ありがとう」と礼を述べ、
「副会長のことを含め、色々と残念なことが多かった事件ではあるが、魔族を打倒したことで解決したのは良かったな……冒険者ギルドの防備については聖王国としても色々と助力していくつもりだ……さて」
と、ここでクラウスはシュウラとセリーナ――つまり、戦士団に所属している英傑へ目を向けた。