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別の一面

 俺が町を離れた二十年前と比べ、ガルティアの町そのものは少しずつ発展してきた。城壁が存在する関係上町の規模を広げるのは難しいけど、王都へ向かう交易路としてそれなりに人は通るようになった……のだが、同時に開拓によるワイルドさはなくなった気がする。


「まあ、もうそんな必要もないか……」


 露店でパンを一つ購入し、それを食べながら大通りを見て回る。ロスラの屋敷を訪れる関係で幾度となくガルティアへ戻ったりはしているのだが、こうしてじっくり散歩することはなかった。よくよく見ると、知らない店とか知らない建物がずいぶんと増えている。


 発展するのは暮らしが良くなることでもあるだろうから、町の人にとっては良いことなんだろうけど、


「少しずつ、痕跡は消えていくな」


 アヴィンとの記憶が……まあ二十年以上経っているのだ。俺の記憶だっておぼろげな部分もあるし、そもそも思い出を維持し続けるなんて無理な話だ。

 少し感傷的になりつつも俺は大通りを進み続けていると……とある店の一角で何やら歓声が沸き上がっているのを目にした。


「ん……?」


 そこへ注目すると、何やら店の前にテーブルがあって、それを男女が取り囲んでいる。なんとなくそちらへ足を向けると、その歓声がテーブルと向かい合って席に着いている人間に対し声を張り上げているのがわかった。


「おい、一体どうなっているんだ!? 何が起こっているんだ!?」

「まるで底なし沼だぞ!? どういう理屈で――」


 そんな声を聞いて俺はある予感がして近寄った。人々が囲んでいるテーブル……そこで席についている人物の周囲には、大量の食器が積まれていた。

 つまりその人物が料理を頼み、それを食いまくっているということだろう……俺はそんなことをする人間に心当たりがあったので近づく。すると、


「……あ」


 一心不乱に食べまくっている人間と目が合った。


「なんというか、こういう時は本当に無邪気だよな、お前は」


 ――その人物は、仲間であるアルザだった。






 以前、魔物討伐の過程でアルザと行動した時、森で狩りをして鹿を捕まえたことがあった。そして彼女は見事な手さばきで解体した後、焼いて食べ始めたのだが――


「最初に見た時は度肝を抜かれたよ……俺が食べた数倍の肉がアルザの腹の中へ吸い込まれていくんだからな」


 食事を終えたアルザに対し、俺はそう言及する。


「で、今日は食べ歩きするつもりだったのか?」


 アルザは黙ったまま後方を指さす。そこには看板があって、大食いチャレンジなるものが書かれていた。制限時間以内に食べきれば、無料になるというものらしい。


「……元々食べ歩きを予定していたけど、これを見つけてチャレンジしたと」


 頷くアルザ。結果は……まあ聞くまでもないな。店の人にはご愁傷様とだけ言っておこう。

 ちなみに観客は既に散っていて俺とアルザだけである。見事な食いっぷりに誰もが驚き「面白いものが見れた」ということで満足して立ち去っていった。


「で、腹は満たされたのか?」

「まあまあだね」


 コップの中に残っていた水を飲み干すと、アルザは席を立つ。


「ということで、別の店に」

「まだ食うのかよ……というかアルザ。今までは見せてこなかったよな」

「別にたくさん食べないと倒れるとかじゃないし。趣味だよ趣味」


 趣味でこれだけ食べられるというのはすごいけどな……ちなみに俺の方はおっさんであることもあるので、昔ほどは食べられないな。


「それにさ」


 と、アルザは苦笑混じりに告げる。


「ミリアがこれを見たらどう思う?」

「……別に隠す必要はないだろ」

「でも、ある日突然とんでもない量を食べ始めたら気味悪がられない?」

「自覚はあるんだな……まあでも、今更ミリアが食事量を増したってどうこう言うこともないだろ……あ」


 と、ここで俺はアルザへ告げる。


「旅費は基本俺が出しているけど、料理の追加注文は自腹だからな」

「わかってるよ。だから今まで一緒に席では食べなかったでしょ」

「……もしかして、ギルド本部の事件の合間とかにも一人になったらこういう食事をしていたのか?」

「うん。こういうチャレンジをやっている店は大体制覇したんじゃないかな」


 というか、他にもこういうことをやっている店があるのか……流行っているのか?

 色々と疑問はあったけど、まあこれ以上追及しても意味はないのでやめておこう。というわけで、


「心配ないと思うけど、腹は壊さない程度に頑張ってくれよ」

「ディアスは何をしてるの?」

「色々と考えながら散歩していただけだ。ミリアには良い指導者が見つかったから、後はロスラが情報を集めるのを待っているだけでいい」


 その間に、俺は何か……と考えていると、アルザが俺へ提案してきた。


「その散歩、付き合ってもいい?」

「ん? ああ、別にいいけど面白みはないぞ」

「そこは別に期待してない……ちょっとディアスの過去が気になっただけ」

「楽しい話でもないと思うけどなあ」


 と、言いつつ俺はアルザへ言う。


「それじゃあ、歩きながらでも話そうか」


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