魔力の流れ
先手はミリア。放たれた剣戟は綺麗な弧を描きながらパメラへ迫る……そして両者の剣が激突した。木剣同士がぶつかる乾いた音が道場内に響く。
ミリアが剣へ収束させた魔力が弾けた――直後だった。本来なら鍔迫り合いに発展してもおかしくない状況下で、ミリアの剣をパメラはスルリと、抜けた。
まるでミリアが力を入れてないようにあっさりと……当の彼女も思わぬ動きに戸惑いながら、パメラを見据えさらに剣を放った。
パメラは横手に回りながら、剣を再び受けた。真芯を捉えたに違いないミリアの斬撃は、相手の動きを確かに止めたはず――が、それでもパメラは剣を容易く受け流し、さらに足を横に移して攻撃しようとする。
ミリアはそこで後退を選択した……横手に回ろうとパメラが動いた結果、立ち位置を半ば逆転させた状態だった。
パメラが立っていた場所にミリアは引き下がりながら剣をかざし相手を牽制する……が、それでもパメラは押しの一手だった。放たれる剣が幾度となくぶつかる――のだが、その全てをパメラはいなしてミリアに当てようとする。
状況的に、相手の手の内がまったくわからないミリアは攻めあぐねている……いや、完全に後手に回っている。パメラが何をしているのかを解明しなければ打開することは難しいだろう。
つまり防戦をしながらどうにか対抗手段を見いだす……というのはさすがに荷が重いか。次の瞬間、カァンと音を上げてミリアの剣が跳ね飛ばされた。
カランカランと木剣が地面に転がった矢先、パメラの剣がミリアの首筋へ。勝負は決した――そして、
「どういう手法なのかしら?」
興味津々な様子でミリアは問い掛けた。
「先ほどの説明から考えると、私の力を利用している?」
「別にミリアさんの魔力を奪っているわけじゃないよ。ほら、剣が激突した瞬間に私とそちらの魔力が触れ合うでしょ? その触れ合った部分における魔力の流れ……本来はあたしの剣を弾き飛ばすため集中させたそれを操作して、魔力を逃がすって感じかな?」
「それで今の結果に?」
「攻撃しているのにスルリと力が逃げる感覚があったでしょ? 魔力が分散してしまったら、力も分散して弱くなるから簡単に受け流せたってわけ」
……俺はなんとなく理解した。例えば、喧嘩相手が殴ってきたとする。それをまともに腹に受けたら当然痛いけど、自分の体を後ろへ逃がしながら受ければダメージは少なくなるし、達人ならばノーダメージにできるどころか、相手の動きを合わせて反撃すらできるだろう。
パメラはそれと似たようなことを魔力でやっているというわけだ。剣同士がぶつかった瞬間、刃が触れている部分の魔力について流れを操作する。普通、相手を倒すために剣を振るならその刀身や腕には相手を斬るための力が収束し、それを相手へぶつけているわけだが、流れを変えられたら……パメラが実演したように、容易く受け流すことができるというわけだ。
ただ、この説明ではパメラが言うように「利用する」とまではいかないだろう。精々魔力の流れを変えているだけだ。これを発展させ、刀身から伝わってくる魔力……それに自分の魔力をぶつけて一時的に自分の力のように支配する、といった感じだろう。
「確かに習得すればかなり強い能力だが」
と、俺はここでパメラへ告げる。
「剣同士でぶつかった結果、操作できるようになるってことだろ? それ魔法の場合はどうなるんだ?」
「試してみる? 兄ちゃん」
自信ありげな様子。俺はその様子に対し杖を軽く振った。
生み出したのは単なる明かり。一応、何かに当たれば一際強く輝いて目くらましとなる……という仕掛けを施し――俺はパメラへ向けて投げた。
即座に彼女は剣を構え、光が迫る――俺はそこで、彼女の両腕に魔力が収束していくのを見た。
「ほっ」
小さな声と共に横一線に繰り出された剣は光に当たり――すると魔法が突如動きを変え、俺へ向かってきた。
「おっと……!」
杖をかざす。途端、光が当たってパアン! 弾け閃光をまき散らした。
「なるほど、魔法は使い手の手を離れているから……弾き返すことも容易ってことか」
「そうそう」
……色々と応用が利きそうな技術だな。ミリアは魔族でありその力も十分だが、ここにこうした技術が足されると、力と技術が融合して一気に強くなれるかもしれない。
「パメラ、その技術だけどミリアに教えることはできるのか?」
「別にいいよ。技術の習得は難しくないけど、扱うにはセンスがいるし、ものになるかはわからないよ?」
俺はミリアへ視線を送ると、彼女は小さく頷いたことで決定した。
「なら、パメラに頼むよ」
「パメラさん、よろしくお願いするわ」
「あたしのことはパメラでいーよ」
「なら私もさん付けは必要ないから」
「わかった……というわけで早速始める?」
「ええ」
会話を繰り広げる間に俺は道場主へ視線を送る。
「俺はひとまず退散するよ」
「町中でも歩いてみるか?」
「そのつもりだ……ま、たまには一人で歩くのも悪くないさ――」