彼女の技術
「ところでその人は?」
……隠蔽魔法が完璧であるため、パメラは彼女が魔族だと気付いていない様子。まあ道場主を始め、察した人はゼロなので、彼女の素性が露見することはなさそうだ。
「ああ、旅の仲間で……」
簡潔に説明する。ちなみに内容としては魔族討伐の際に出会い、諸事情によって親族のいる場所に身を寄せようとしたが、難しかったので一緒に旅をしているといった感じだ。
「で、彼女は魔族とも少々因縁があって」
「なるほど、ディアスが魔族討伐にする際も積極的に関わってくれると」
「ああ。それとここにはいないけどアルザも一緒に同行している」
「……アルザ!?」
驚かれた。まあ退魔の剣士として名が売れているからな――
「な、なぜアルザが……?」
「英傑の一人であるシュウラに頼まれて、彼女の様子を見に行った結果、なんか一緒に旅をすることに」
……パメラは沈黙した。先ほど「俺の仲間になれば名が売れるかも」といった考えすら吹き飛び、アルザという言葉を聞いてなんだか身構えている気配すら見受けられる。
「何か因縁とかあったっけ?」
そんな様子を見て取って俺が問い掛けると、パメラは複雑な顔をした。
「いや、因縁とかではないんだけどさ」
「知り合いではあるのか?」
「うん、まあ……なんというか、できの良い後輩みたいな」
ああ、なるほど……たぶん剣の手ほどきとかをしたのだろう。結果、彼女は退魔の能力もあって大成したため、置いて行かれて複雑な気分ということか。
「といっても、会うのは何年ぶりレベルだし、顔を合わせたらどうなるかわからないけど」
「アルザなら、久しぶりくらいの感じで返してくれるんじゃないか? それで」
と、俺は道場主に目を向けながら、
「ここにはミリアの剣の指導をしてもらえないかと訪ねたんだが、パメラに教えてもらえばいいと助言されたんだが」
「ミリアさんを?」
パメラはミリアの姿を一度じっと見据える。
「……たぶん、私が魔物とか魔族相手に剣術を鍛えたからそう言ってんだろうけど」
「剣術を鍛えた?」
「魔族と戦う場合、一番注意しなければならないのは何?」
「それはもちろん、魔力量だろ」
俺の言葉に対し、パメラは深々と頷いた。
「そうだね。人間にはない圧倒的な魔力……それに対し人間は技術によって対抗してきた」
「場合によっては魔族が保有していた技術を応用して……というケースもあるな」
「そうだね。そこに加えて剣術や魔法を学ぶことで、強くなり魔族に対抗できる術を生み出したわけだけど……私はこの魔族の力に注目した。それを利用できないかって」
「利用?」
「魔族の攻撃をただ受け流すだけではなく、その力を取り込んで使えないかってこと」
……またずいぶんと面白い手法を考えたな。
「とはいっても、相手の力をそのまま利用するなんてできない。やれることは精々、放たれた力の多くを受け流しつつ、一部を使って剣の切れ味を強化するとか、あるいはその魔力を利用し、魔法を発動させるとか」
「切れ味はわかるけど、魔族の魔力を利用するというのは、危なくないのか?」
「剣に特殊な術式を刻んでおくことで、魔族の魔力を人に利用できるよう変換しているってわけ」
ほう、それは興味深いな……俺の強化魔法なんかでその技術、応用とかできないだろうか。
「でもまあ、あくまで利用できるのはごく一部。あたしがもっと鍛錬すれば利用できる魔力量だって上がるかもしれないけど」
「でも魔族の力を利用して……というのは、かなり有効だな。相手の魔力を利用できれば、魔力枯渇なんて悲劇を回避できる。それを応用すれば、高位魔族とも戦えるか?」
「どうだろうね。さすがに魔王クラスの力に通用するとは思えないけど」
やり方次第でどうとでもなりそうな感じではあるが……ふむ、ミリアは魔族ではあるけど、その技術は利用できそうだな。むしろ魔族同士の戦いとなった場合、ミリアならばより魔力を利用できるだろう。
「興味が湧いてきたんだが、それって教えてもらえたりするのか?」
「別に構わないけど……それはミリアさんにやるの?」
「ああ。俺の方も強化魔法で何か応用できるかも……」
「どうだろうねえ……ま、ともかくミリアさんの実力について先に確認しておくべきかな?」
「それならこの場で構わないぞ」
と、道場主がパメラへ向け呼び掛ける。
「こちらとしてもパメラがどのくらい成長したのか興味がある」
「だそうだけど、ディアス」
「ミリア、やれるのか?」
「ええ」
あっさりと返事をしたミリア。するとそこでパメラが剣を抜き、
「なら早速、始めようか」
――パメラとミリアが対峙する。俺と道場主はそれを観戦するべく観察をすることに。
門下生相手には十二分に通用していた技術。とはいえ、パメラはどうなのか……先ほど言った技法を使ってくるのか、あるいは利用せずに戦えるのか……沈黙を守っていると、とうとうミリアが動き始めた。