次の目的地
俺が語った説明を受けて、エーナは立ち尽くしながら俺と視線を重ねた。周囲はいよいよ夜を迎える状況。ギルド本部へ向かう道ではあるが人通りはほとんどなく、少しずつ暗くなっていく世界の中で俺達は無言となる。
やがて、
「……アヴィンという魔族、友人が亡くなったこと、魔王が原因だと?」
「彼の従者はそう語っていた……まあ、詳しく語らなかったから、直接的に手を下したのか、それとも政争とかの要因なのかはわからない……ちなみに言っておくと、俺自身仇討ちという感じはなかったよ。親友と呼べる存在だったけど、従者が姿を現した時にはだいぶ記憶も薄れていたから。でも悲しかったのは事実で……だからこそ、いつか魔王と戦うことになったら、可能な限りあがいてやろうとは思った」
「それが執念、か」
「ああ。結実したからこそ、俺は生きている」
「……ディアスの大切な思い出に踏み込むわけだけど、構わないの?」
「秘密にしておきたいわけじゃないしな。それに、俺の過去の情報が役に立つなら……それが魔界との戦いに役立つなら、遠慮なく利用してくれればいい」
「わかった。どうなるかわからないけど、クラウスに伝えるよ」
「頼む……次の目的地を考えると、こうして言うのはある種、流れに沿っているかもしれないな」
「それって……」
エーナが言及する前に、俺は小さく肩をすくめ、
「さて、そろそろ戻るとしよう。数日後くらいには旅を再開するから、そのつもりで頼むよ――」
翌日、俺はミリア達と朝食時に顔を合わせた際に魔族アヴィンのことについて伝えた。
「ザンヴァール家……」
と、家名を告げたところでミリアは考え込んでしまった。
「聞いたことはある……と思うわ。ただ魔王候補というのはピンキリだし、知らない魔族もいる……そうした存在が魔王によって何かしらの要因で消される……というのも、事例としては存在している」
「目立った家柄ではなかった?」
「ええ、そうね……少なくとも古い血筋とかではなかった……ただ、逆に言ってしまうと魔王候補だとしても人間界に逃げなければいけないというのは……」
「アヴィンのプロフィールそのものに疑問が生じるわけか」
「そうね……私としても気になる話ね」
情報についてはないが、ミリアは興味を持ったらしく真相究明に意欲を示した。
「じゃあ次の目的地は以前言った通りで」
「そこへ行けば情報はあるのかしら?」
「正直、望みは薄いよ。でも、最後に従者と遭遇したのもここだったから、痕跡を辿る何かがある……という可能性はある」
ま、色々と用向きもあるから、次の目的地としては都合が良いだろう。
「ただ、アルザはいいか? 正直、稼げそうな仕事なんてものはないぞ」
「私は構わないよ。それに、現時点でこなした仕事だけでも結構な報酬はもらえているし。それに」
と、アルザはニヤリとなった。
「エーナが色々と仕事を融通してくれる手はずだからね」
「……やっぱりエーナのことについて、二人が絡んでいたか」
ここでミリア達は別のことに興味が移った様子。具体的に言えば昨日……まあデートと言って差し支えないだろう。その結末がどうなったのか。
「俺の口から話すよりも、エーナに直接訊いた方がいいんじゃないか?」
「それもそうね」
「うん、食べ終わったらギルド本部に行くよ」
「まったく……明後日くらいにはこの町を離れるつもりだ。それまでに後腐れないようにしてくれよ」
――食事の後、ミリア達は一目散にギルド本部へ向かった。ザンヴァール家に関する情報はなし、とミリアが直接言うらしいから、俺が行く必要はなくなった。
よって俺は一度宿を出て、町中を散歩する。その中で、
「……アヴィン」
ふと友人の顔を思い出して、空を見上げた。
「最後まで何も話さなかった……当時の俺はそれでも構わなかったし、一緒にいるだけで楽しかったから、不満もなかったけど……まさか二十年以上経って、宿題を出してくるとは思わなかったよ」
果たして、この問題は解決するのだろうか? 疑問と共に、俺はなんとなく思う……彼は魔王の何かを知っていた。どういった秘密なのか不明だが、それは紛れもなく禁忌に触れるものだったのではないか。
「反魔王同盟……それは何か関連があるのか? 現時点ではわからないことが多いけど……魔王が動いた真意を含め、調べなければ真相に辿り着くことはできないだろうな」
ある意味、魔界の深淵に触れることになる……生半可な覚悟では進めないだろう。だが、
「それでも、魔族が今後人間界へ侵攻してくるのであれば……調べないわけにはいかないか」
反魔王同盟についても、他ならぬ滅びた魔王のことを知らなければ解決しない雰囲気だし……ただ、踏み込めばロクなことにならない気がする。
「自分探し、という旅には逸脱しているな……」
まあ、関わるかは後で考えるとしよう……と思いながら、俺は次の目的地へ思いを馳せる。
町の名はガルティア。そこは、俺が生まれ育った町だ――