彼の助言
俺とシュウラの間に風が流れる。突然決闘の申し出……なのだが、彼は一度鋭い気配を潜め、話し始める。
「理由を説明した方が良いですか?」
「そうだな。俺と戦ってどうするんだ?」
「これまで共に戦ってきましたが、本気でぶつかり合ったことはありませんでしたからね。戦いは終わりましたが、ならばどちらが強いのか……試したいとは思いませんか?」
「シュウラも思ったより武闘派だなあ……というか、そもそも『六大英傑』同士で決闘とかなかっただろ」
「そもそも役割が違いましたからね。私とセリーナ、ディアスさんは似通っていますが、戦場での立ち位置は違いましたし」
「でも、全てが終わったから……」
「ええ。受けてくれますか?」
――俺としては、別に構わないと思っている。それに『六大英傑』として、本気で戦ってみるというのは、二十年戦いのことに向き合い続けた身としては興味もある。
「まず、決闘そのものは構わない」
「ありがとうございます」
「受けるんだ……」
驚くミリア。俺は彼女に小さく肩をすくめつつ、シュウラへ話す。
「ただ一つ、頼みがあるんだが」
「はい、何でしょう」
「俺達、夜通し歩いて疲れているし、休ませてくれないか? 明日の朝か昼、体調が万全になってからでどうだ?」
その提案に対し……シュウラは笑い始めた。
「ああ、すみません。さすがにそこまで気が回りませんでした。ええ、いいですよ。なら私も今日一日、町に滞在します」
「俺は一度宿に戻って眠って、昼に食事でもしようかと思っているんだが……あ、ミリアはそれでいいか?」
「え、ええ。いいけど……」
「なら私は食事に付き合いますよ」
「決定だな。というわけで――」
と、そこで俺は一つ気付く。
「その前に、ギルドへ行って依頼達成の報告をしないといけないな――」
仕事の報酬を受け取り、俺とミリアは一度仮眠をとってから酒場に入る。そこでシュウラと合流して色々と話を始めたのだが――
「このような形で食事ができるとは思いませんでしたよ」
「別の戦士団に所属していた手前、戦場以外で交流はなかったからなあ」
シュウラを交え、俺達は食事をする。雑談に興じる俺とシュウラに対し、ミリアは黙々とパンを食べながら視線を送ってきていたのだが、
「……あの、一ついい?」
会話の間を狙い、意を決したように彼女は発言した。
「その、二人は仲が良かったの? 悪かったの?」
「んー、どうだろうな……そもそも、仲が云々と言われるくらい交流があったかと言うと……」
「微妙ですね」
同調するシュウラ。その反応でミリアは小首を傾げ、
「微妙……?」
「戦士団が異なっていたため、ディアスさんとは言わば商売敵という間柄でしたが、共闘するケースもありましたし悪い印象はありませんでしたね。ただ、仲の良し悪しを語れるほど、交流はなかった」
「戦場で背中を合わせるような時は、仲間意識を持ってはいたよ」
と、今度は俺がミリアへ語る。
「でも、そういう場所は普通とは異なる……精神状態とかも違うからな。戦いの場と普通とで使い分けているし……ただ、俺としてはあんまり印象良くなかったぞ」
「おや、そうですか?」
「というか、何かを探るように視線を向けられて良い気がする人間は少ないだろ」
こちらの指摘にシュウラは笑い始める。
「ははは、確かにそうですね」
「……と、以前注意したことあるけど全く直っていないところを見ると、改めるつもりはないんだな」
「これが私の生き方ですので」
「生き方とまで言うか……」
「直しようがない、と言えば良いでしょうか。そもそもこの顔が良くないのです。細い目で何を考えているのかわからないとか言われますし」
「それはなんというか……ご愁傷様としか……」
シュウラは笑い、俺は苦笑する。そんなやりとりを見てなのか、どこか警戒する素振りがあったミリアも笑みを浮かべる。
「お、ようやく笑ってくれましたね」
シュウラは彼女の変化に気付き、言葉を告げた。
「私自身が言っても説得力ありませんけど、別に心が読めるわけでも相手のことを全て暴こうなどと考えているわけではありませんので、ご安心を」
「そういう雰囲気を見せるのが、彼の交渉術の一つだけどな」
横やりを入れるとシュウラは「まさしく」と答えつつ、
「それに、魔族相手だから誰彼構わず滅ぼそうという考えを持っているわけでもありませんので」
「……人間達は、魔族を恨んでいるでしょう?」
「話のできる方もいます。あなたが頼ろうとしている御仁が良い例です」
シュウラはそうした存在を知っているからこそ、魔族に対し悪い印象ばかりではないというわけだ。
「とはいえ、あなたの言う通り忌避している人間がいるのも事実。ディアスさんがきちんと対応しているわけですが、本来この場所は人間の領域です。くれぐれも、ご注意を」
それは、シュウラなりのアドバイスらしい。ミリアは当然とばかりに頷き、シュウラは反応に笑う。ひとまずシュウラの存在によってミリアが脅かされることはなさそうだった。




