魔族の情報
「――そういえば」
日が沈み、空が暗く始めた段階で俺達は帰路につく。その道中、エーナは俺へ疑問をぶつけてきた。
「シュウラについてなんだけど」
「シュウラ? どうかしたのか?」
「ディアスのことを調べているみたいなんだけど」
「……何?」
「懇意にしている情報屋が言ってた。今回の事件で顔を合わせた際、尋ねようかなー、と思っていたんだけど聞きそびれた」
「なぜ俺のことを?」
「わからない。心当たりある? 魔王との戦いのことについて、調べていたみたいだけど」
俺は首を傾げながら考える。
「魔王との戦いの際……俺が何かしていたってことか?」
「何か変なことした自覚ある?」
「いや、ないと思うけど――」
そこまで答えたところで、シュウラと決闘を行った時のことを思い出した。戦士団を抜けて旅を始めた俺に対しシュウラは決闘を申し込んだわけだが……その際、理由を語っていたわけだがそれ以外にも決闘を行った理由があるとすれば――
「……もしかしたら」
「うん、何?」
「俺が単独で魔王と戦えた……その事実について調べていたのかもしれない」
エーナは俺の発言に対し眉をひそめる。
「それ、そんなに変なこと?」
「クラウスやセリーナならまだしも、俺がという点に興味を持ったんだろ」
「強化魔法次第では立ち回れそうな気がするけど……それにディアスは戦えたと言っても短時間だし」
「俺もそう思うけど、シュウラはその事実を重く見たわけだ……他ならぬシュウラ自身が魔王と相対したからこそ、俺の戦いぶりが異様に映ったのかもしれない」
――そこで、俺は天を仰いだ。
「……俺としては、もう終わったことだし別に話す必要はないだろうと思っていたけど、実際は違うのかもしれないな」
「戦えた点について理由があるの?」
「ああ……そもそも俺が魔王と戦う際に使用した強化魔法は、対魔王に用意しておいた決戦術式だ」
俺のセリフに対し――エーナは目を見開いた。
「決戦術式……!?」
「もし魔王と戦うことになったら、というのを想定して組み上げたものだ。ただ、俺自身本当にそんな機会があるのかと疑問に思っていたし、この魔法が通用するかも不透明だった。魔王の実力なんて、どれだけ想像しても想像しきれないだろうと思っていたし、実際挑んだらあっさり負けました、なんてオチだって考えられた」
「でも、戦えた」
「数分程度、だけどな。でもまあ、仲間が立ち上がるだけの時間は稼げたんだ。十分な功績だし、執念が実ったんだろうな」
「……ディアス」
名を呼んだエーナは、核心に迫ろうと顔を強ばらせる。
「魔王と何か因縁が?」
「……あー、正直因縁と呼べるのかはわからない。でも、俺は戦士として活動する中……魔王と戦うということを考えていた」
そう前置きをした後、俺はエーナの目を見た。
「エーナ、王都へ足を運んでクラウスと顔を合わせるんだろ? その際、今から言うことを伝えてくれ……そうだ、この際だからミリアにも言おう。何か知っているかもしれないし……彼女の知っている情報についても、明日エーナに伝える」
「どういった情報?」
「俺は終わった話だと思っていたけど、反魔王同盟……そんな存在がいるとなったら、もしかすると関係があるのかもしれない」
まず俺はオーベルクが語っていたことを伝える。魔王が侵攻したのは謀略によるもの……それはエーナも予測していたのかさして驚きはしなかった。
「魔王が直接動き出した……ということで、何か理由があるのかもしれないと私は思っていたし」
「そうかもしれないな……それこそ反魔王同盟の仕業、なのかもしれない」
「本当、厄介な存在だよ。魔界でおとなしくしていればいいのに」
「そうしない理由があるんだろ……ま、真相究明はシュウラなんかに任せるよ」
「わかった……他に何かある?」
「アヴィン=ザンヴァールという魔族、もしくはその関係者について調べてくれ。可能であれば接触して話を聞くといい」
「その魔族は?」
「幼少の頃、人間界にいた魔族……そして俺の友人だ」
――今度こそ、エーナは驚き絶句した。
「同い年の友人で、十二歳の頃まで故郷の町で遊び回っていた……どうして人間界にいたのかは俺も知らないし語らなかった。ただ、明瞭な目的があって人間界にいたことは、会話の端々から俺も気付いていた」
「その魔族は今、どうしているの?」
「別れてから会ってはいない。でも、俺が戦士として活動していた時、噂を聞きつけてかアヴィンの従者がやってきて、死去したと俺に言ってきた」
エーナは口をつぐむ……その間に俺は話を続ける。
「彼は次期魔王候補だったらしい。ただ、本来そういう身分ならわざわざ人間界に来る理由がない……戦士として活動していた時、考察したんだが……おそらくアヴィンは魔王になることを拒否した。いや、それだけじゃない。魔王になることそのものに……何かがある。だからこそ彼とザンヴァール家の者は、それを回避するべく動いていたんじゃないかと俺は思う――」