彼女の手腕
俺はエーナへ何気なくセリーナが入団した当初のことを語った。すると、
「なるほどね、プライドとか傷つけられた感じか……」
「セリーナは真面目だからな。勝てなかった相手……それを残して城へ入ろうとはしないのかもしれないな。ま、セリーナの気持ちの問題になってしまうし、別にやらなくてもいいだろって思うが」
俺は肩をすくめつつ、エーナへ続ける。
「おそらくだが、英傑として魔王討伐に加わった彼女に対し、国側は便宜を図っているはずだ。戦士団としての功績も大きい……実際『暁の扉』は彼女の入団によって飛躍的に成長したし、自分の力で成り上がった……それを証明するために、戦士団に入った意味合いもあるだろう」
「実力だけじゃなくて、自分には組織を成長させる能力があると?」
「政治的な意味合いだと、こちらの方がより評価が高いかもしれないな」
俺はそう告げつつ料理を口に運ぶ。
「うん、美味いな」
「気に入ってもらってなにより……話を戻すけど、セリーナとの因縁はそれだけ?」
「ああ。出会いが最悪だったというのもあるだろうけど……ともかく、彼女がどういった大望を秘めているのか知った時、なぜ『暁の扉』に入ったのか、そしてなぜああまでして高圧的なのかはおおよそ理解できたよ。まあ、だからといって団員はもうちょっと優しくできないかと思うところだけど」
と、俺はここで苦笑した。
「ただ、俺は思うんだよな。それこそ『暁の扉』はセリーナが入って窮屈になった面はある。規律とかそういうのを注意するようになったから。だが結果的に、それによって戦士団そのものの規模は拡大し、上位の戦士団として認知されるようになった」
「セリーナの手腕は確かだったと」
「そうだ。加え、彼女自身は団長を支える形……つまり副団長という地位に立ったことで、反発も生まれにくかった。セリーナが団長になっていたなら空中分解していただろう……要は彼女自身、矢面に立ったらどうなるか自覚しているってことだ」
「自分が厳しい人間で、他者から色々言われているのをわかっている?」
「そうだ。で、彼女はそういう風に装っている……本来の性格は、違うと思うぞ」
と、ここで俺は言葉を止めた。実を言うと、彼女に関してもう一つエピソードがあるのだが……、
「ディアス、どうしたの?」
「いや……何でもないよ。話はこれで終わりだけど、何か質問とかはあるか?」
「……セリーナと仲良くなる方法とかない?」
「仲、悪かったか?」
「うー、うーん……言うほど接していないからわからないけど……ほら、私王都で今回の事件について報告しなきゃいけないわけで、たぶんその際に顔を合わせると思うんだよ」
「エーナなら大丈夫だろ」
「ほ、本当?」
「エーナは戦士ではなく冒険者ギルドの職員だからな。俺なんかとは立場も違うし、もう一つ言うなら懇意にしていた方がいいだろうと考えるはずだ」
エーナは俺の言葉にどこか納得のいく表情をしつつ、
「なるほど……自然体で話し掛ければなんとかなるかな?」
「ああ、それで問題ないと思うぞ」
頷きつつ俺はスープを飲む……気付けばお礼とかあんまり関係ない雑談に興じているわけだが……なんというか、エーナとこうして落ち着いて話をする機会、あまりなかったなと思ったりする。
それと共に、俺はふと思う……彼女が用意したお礼という名目のもの。それが何を意味するのか――俺はおぼろげに、理解し始めていた。
食事の後、俺はエーナの案内によって別の施設へ足を踏み入れた。そこで俺は、今回のことについて相当なプランが練られているのだと確信する。
同時に、これほどの計画を果たして彼女一人で用意できるだろうかと疑問に及んだ時、俺は彼女の側近であるノナや、果てはミリアとアルザの顔が頭に浮かんだ。
おそらく、二人も協力していたのだろう……そう考えたら今までの行動もおおよそ理解できた。ではなぜ二人がそうやって手を貸したのか。理由は――
「……ずいぶんと色々回ったな」
考えながら俺へエーナへ告げた。時刻は夕刻前。日差しが少しずつ赤みが増していくくらいであり、一時間もすれば夕焼けによって町が染まるだろう。
「ちなみに夕食までプランは用意しているのか?」
「最初は考えたんだけど、さすがにここまで回ったら疲れているでしょ? だから、次の場所で今回はおしまい」
……きっと、そこでエーナは決着を付けるつもりなのだろう。俺は「わかった」と返事をして彼女の案内に従い歩みを進める。
辿り着いたのは、町を出た先にある高台だった。一応公園的な感じで木製のベンチみたいな物は置いてあるが、落ち葉が積もっている場所が散見されたりと、清掃とかはしていないみたいだ。
「最後の最後にこの場所はなんだと言いたいだろうけど」
「いや、目的はわかったからな」
高台は西に向いており、今まさに太陽が沈み始め空が赤く染まっていく光景があった。
ミリアと共に薬草採取の依頼を受けた時、朝日を眺めたことはあったが……その時と同じく、穏やかな気持ちで夕焼けを見ることができた。そして、エーナは俺の顔を見て……嬉しそうに笑ったのだった。