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出会い

「――いや、助かったぞディアス」


 セリーナが入団し、所属している魔法使いを次々と負かし、俺がどうにか勝ちを拾った後……当時の団長は俺にそう話した。


「彼女の武勇は聞き及んでいたんだが、まさかこれほど強かったとはなあ」


 その時の団長はロイドではなく、最前線に立つより裏方向きの戦士だった。俺と同じように取り立てて特徴のない、影の薄い男……それは本人も自覚していて「名前を憶えてもらえないんだよなあ」とぼやいているのを知っている。

 ただ、交渉事については温和な雰囲気もあって非常に有能であり、戦士団『暁の扉』が国と連携をするほど存在感を示すようになったきっかけを作った人物である。


「全滅していたら、戦士団として立つ瀬がないところだった」


 ……たぶん、主導権を握られていたことだろう。セリーナが戦士団を乗っ取るとかそんな気はないにしても、新入りにボコボコにされてしまう、という事態によって戦士団として評判的にどうなるかというと……。


「ただ、俺のやり方はそれこそ力押しだからな」


 団長に対し、俺は説明する。


「彼女が全力で戦っている姿を見て、どのくらいの強化を施せば受けきれるか見切った上での所業だ。たぶん最初に戦っていたのが俺ならあっさり負けているぞ」


 実際、彼女の魔法を受けとめてみてすぐに理解した。あれは間違いなく本物だと。

 まともに戦ったら絶対に勝てない。それこそ、英傑入りするのでは……そんな予想すらできるほどの実力者だった。


「団長、今の状態であれだと末恐ろしいものがあるな」

「そうだな。でもまあ、面子は保たれたし、後は彼女をどう起用するかだが」

「それなら簡単だろ。あれほどの実力者だ。彼女を中心に戦術を組み立てればいい」

「ディアスは前に出ないのか?」

「俺の魔法はあくまで強化がメインだ。彼女が前衛で俺が後衛……ってポジションにすれば、特段違和感もないだろ」


 こちらの指摘に団長は「わかった」と応じて立ち去った。それを見送った後、俺は一つ疑問を呟いた。


「確かに、実力はある……が、なんでこの戦士団に入ったんだろうな?」


 ――当時、この戦士団の実力と規模は中堅くらいであった。あの実力があれば、上位の戦士団に入っても目を掛けてもらえるはずだ……にも関わらず、彼女はここを選んだ。何か理由があるのだろうか。

 俺はその後、戦士団で借りているギルドハウスから出た。セリーナとの戦いで疲労していたし、今日のところは休むかと思って宿へ戻ろうとした。


 だが、その時……俺はセリーナがどこかへ歩いて行くのを見た。別に気になったわけではないのだが……俺は気まぐれに、彼女の後を追った。

 やがて彼女は王都にある公園に辿り着き、その隅の方にある雑木林……その中で立ち止まった。


 何をしているんだろう……と思いつつも、さすがに声を掛けることもできず俺は立ち去ろうと思い踵を返したのだが――


「……失敗した」


 俺の耳に、それだけ聞き取れた。その瞬間、俺は彼女がどういう意図で戦士団へ入ったのか理解した。

 何のことはない。戦士団『暁の扉』を選んだのは、元より実力で団員を制圧して、主導権を握ろうとしていたのだろう。上位ではなく中堅クラスだった戦士団を選んだのは、制圧できそうだったから……そんなところか。強引な手ではあるが、戦士団を運営する立場になるためには、それが一番だ。


 ではなぜそうまでして……当時、俺は彼女のプロフィールなんてものは知らなかった。けれど、苛烈なまでに強力な魔法を使用する彼女を見て――俺は何かに追い立てられているような、あるいは絶対に成しえようとする目的があると感じた。できるだけ早く成り上がるための手段を選んだ。こんなところで引っかかっているわけにはいかない……そんな風に思い、どれだけ実力差があっても全力で彼女は戦った。


 おそらく魔法使いを全員叩き潰した後、今度は戦士をも倒しきって、団長に認めさせようとしたのだろう。たださすがに自分が団長になると言い出さないだろうと俺は思っていた。圧倒的な攻防の中で、彼女は相手の能力を見極める冷静さを持っていると理解できた。彼女は対戦相手を圧倒したが、相手は軽傷だった。これはつまり、全力の中で魔法を制御していた証拠だ。

 状況を判断できる理知的な面もある……団長を補佐する役割とか、そういうのを担うつもりだったのかもしれない。


 そして一番の疑問はなぜ戦士団に……俺は彼女の姿を思い浮かべる。その装備はなかなかの高級品だった。おそらく結構高貴な家系……それなら宮廷魔術師を目指すはずだが、それをせず戦士団を選んだというのは――


「……ま、推測するのはここまでにするか」


 実際のところ、俺の考えは当たっていたのだが……思考を中断して公園を後にする。

 今思えば、セリーナにとって俺との出会いは最悪だっただろう。そしておそらくこう思ったのではないか……俺との因縁が生まれた以上、絶対にいつか決着をつけようと――


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