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ある因縁

「……本人に聞いたわけじゃないし、あくまで憶測だけど構わないか?」

「うん、別にいいけど」

「恨みがあるとかそういうわけではない……が、俺と彼女には因縁があった」


 眉をひそめるエーナ。聞いたことがないという顔だ。


「確認だけど、エーナ。セリーナがなぜ戦士団に入ったのかは知っているか?」

「元々宮廷魔術師になりたかったけど、家柄とかしがらみがあってそれができなかった、だっけ?」

「その通りだ。セリーナの家系について詳細は省くけど、政敵がいて彼女が宮廷魔術師入りすることを裏で止めた」

「その人物というのは……?」

「実は知らないんだよな。たぶんだけど、現在も影響力のある人なんだと思う。その名前を迂闊に口にしたらまずいということなんだろう。ほら、戦士って口が軽いし」

「そこは否定しないけど……それでセリーナは戦士になることを選んだ?」

「他に手段がなかった、というのが理由じゃないかな。セリーナは間違いなく才能があった。それは魔王との戦いでも証明されたわけだが……その実力を見て、政敵はまずいと判断した。それに対しセリーナは戦士として名を上げれば、城へ入れると考えた……実際、エーナのように実力が認められ公的な組織に所属するようになった事例はいくらでもあるからな」


 俺の言葉にエーナは頷いた――もちろん、素行が悪ければそういう話はない。騎士としてスカウトされるのは、戦士として真面目に活動していた者のみ……酒癖が悪いとか、そのくらいであれば許される範囲ではあるけど。


「結果としてセリーナは英傑として認められ、国側もその働きを見て宮廷入りさせたと考え始めたが……政敵が妨害している」

「よっぽどの相手だよね……」

「だからこそ、弱音を見せないようにしているんだろ」


 俺の言葉にエーナは目を瞬かせた。


「弱音……もしかして高圧的な言動って――」

「それが全てではないと思うぞ。でも、下手に戦士として甘い対応をすれば絶対に政敵はそれを突いてくる……だからこそセリーナは公正で、清廉潔白な活動をしなければならなかった。元々の性格そのものも、生い立ち含め威圧的な言動をしてしまう理由になっているとは思うけど、他者から見て苛烈な言動をするのはそういう面もあるって話だ」

「……ということは、現状はあんまりよろしくないのでは?」


 彼女の指摘に俺は首を傾げる。


「どういうことだ?」

「だって、ディアスを理屈はあるにしても追い出したわけでしょ? というか、周りもそんな風に思っているし……」

「まあそうだな……ただこれはセリーナの見立てが甘かったのかもしれない」

「ディアスを追い出しても問題はないってこと?」

「影響はそれほど大きくないと考えたんだと思う……これもまた推測だけど、まず魔王を倒した功績によってセリーナは宮廷入りを……と考えていたかもしれないけど、それは難しいとわかった。まあセリーナが単独で魔王を倒せたなら話は別だったかもしれないけど、あの戦いは英傑が集った功績だ。誰かが抜きん出た戦果を挙げたというのは違うし」

「うん、それは同意する」

「よってセリーナは、もっと個人的な戦功を得る必要があると考えた……が、戦士団には七人目の英傑と呼ばれる俺が存在している。よって戦士団として動いたら俺の方に戦功が向いてしまうかも……と思案した」

「それが理由?」

「それに加えて因縁かなあ」

「……因縁って?」

「先に言っておくけど、そんなに重大なことじゃないぞ……戦士団で一緒に戦っていたことからもわかるとは思うけど」

「でもディアスを追い出すくらいには、でしょ?」

「……うーん……」


 俺は腕組みをする。


「色々溜まっていた面もあるのかなあ……」

「その因縁については話せる?」

「……以前仲間に語っていたし、別にいいとは思うけどな。端的に言うと、英傑に入る前に俺は彼女を決闘で倒しているんだよ」

「……へえ?」


 初耳だったのかエーナは興味深そうに呟いた。


「彼女が『暁の扉』に入ってきた時点で、訓練のために何度か戦ったことがあるんだが」

「でも彼女は新人でしょ?」

「ああそうだよ。でも、入団当初からセリーナは強かった。それこそ、他を寄せ付けないくらいには……当時『暁の扉』に所属していた魔法使いは、俺を除いて瞬殺だった」

「でもディアスは勝てた?」

「色々な要素が重なって……俺の本分は強化魔法だけど、それを利用し彼女の魔法を受け流すくらい能力を向上させてどうにか」

「ゴリ押しだね……」

「そのくらいしか勝つ方法がなかったんだよ。ダメージをゼロにするくらいしか彼女を止める手立てがなかった」

「で、結果として因縁が生まれたと」

「大したことのない話……と、他者から見れば思うかもしれない。だが彼女にとっては癒えない傷のように心の隅に残り続けているんだろ」


 そう解説した時、料理が来た。この話題は食事に合うのか疑問だったのだが、当のエーナはそう思っていない様子で、


「もしかしてセリーナは、戦士に弱みを見せることも、負けることも許されないと思った?」

「かもしれない。だからこそ、負けた相手を必ずリベンジしてやる……なんて思ったんだろう」


 そう呟いた直後、俺は彼女にまつわる出来事を一つ思い出した。


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