一世代前
その後、俺達はエーナが予約した店へと入った……予約なんてするくらいだからどれほどの高級店なのかと身構えたのだが、コース料理とかが出てくるような店ではなく、内装がかなり綺麗な料理店であった。
ただ個室については完全予約制らしく、結構人気があるらしい。
「マナーとかは気にしなくていいけど、さすがに冒険者の格好で来るのは無理だな」
俺が感想を述べるとエーナは小さく頷きつつ、
「料理についてはおまかせにしているけど……」
「それでいいんじゃないか? さて、ここまで動きっぱなしだったし少しゆっくりするか」
そう言いつつ俺は椅子に座る。対面する形でエーナが着席すると、
「ねえディアス」
「ん、どうした? さっきの話か?」
「うん……レファさんを始めとして、一世代前の英傑……私もまあそれなりの年齢だし全員名前や見た目は知っているけど……」
「一世代前、と言っても結構な年月経過しているからな」
現在の英傑で一番の古株はクラウス。レファを始めとした一世代前の英傑が退いた後に入れ替わりという形で入ってきたのだが、
「そもそも英傑というのは別に国が認可しているわけでもないし、六人に限定される必要性もない……基本的に誰かが引退したらそれじゃあ次に強いのは誰か、みたいな話が冒険者とか戦士の間で流れて、自然と決められていく……という感じだ。で、レファを含め一世代前は立て続けに第一線を退いた結果、一時期英傑が一人になった、という事態に陥った」
「それ自体が話題になってたよね」
「引退ではなくあくまで最前線で戦うことはなくなったという話だったんだが……それでもインパクトは相当なものだった。結果、英傑が一気にいなくなったという話題によって新たな英傑は誰なのか、みたいな話がかき消されどこからも上がらなかった。唯一、騎士から次期騎士団長候補としてクラウスがいて、彼は英傑にふさわしいだろうということで称号が与えられることになったわけだが」
「……その時、どう思ったんだろ?」
「クラウスから聞いたことあるけど、特に何も感じなかったらしいぞ。あいつは剣術とかについては絶対の自信を持っていたし、英傑入りしてもおかしくはない、という自負を持っていたんだろうな」
「すごい自信家だね……」
「そういうエーナはどうなんだ?」
「私? 英傑なんてものに縁はないと思っていたくらいだからね……でもまあ、そう呼ばれるようになってからは少なくとも槍は握り続けているよ」
「それはいいけど、もう少し仕事をどうにかしろよ」
「わかってるよ」
口をとがらせ返答するエーナに、俺は笑う……と、ここで俺は彼女が送ってくる視線について、あることを感じ取った。
俺と話をしてリラックスしている様子を見せつつも、俺との会話についてずいぶんと気を遣っているのがなんとなく伝わってくる。それと共に、俺へ向ける視線についていつもの違う……何か、探りを入れているような雰囲気さえある。
今回こうして一緒に町を見て回っていて、それは俺への礼ということになっているが……何かしら思惑があるように見えた。ただ、悪巧みとは違うだろう。
それが一体何なのか……胸中で推測をする間に、エーナは話を続ける。
「今回の騒動でしばらく冒険者ギルドは混乱することになるとは思うけど……冒険者側に影響がないように頑張るよ」
「そうしてもらえると助かるけど……副会長という存在が消えたんだ。ダメージは相当大きそうだな」
「間違いない……でもまあ、今後魔族からの攻撃さえなければ……」
「エーナとしては、今後も攻撃があると思うか?」
そんな問い掛けに対し彼女は一考した後、
「人間側は魔王だけでなく、魔王候補でさえも倒せている。その事実を踏まえれば、しばらく様子を見るという可能性が高そうだけど……」
「何をしてくるかわからない怖さはあるよな……」
「それは確かだね。国側としてはより一層警戒を強めると思う……あ、それと呼ばれているんだった」
「呼ばれている? 誰に?」
「クラウスさんに。事件の内容について直に報告が聞きたいって。たぶんシュウラなんかも呼ばれていると思う」
つまり、英傑を招集している……まあ魔界を警戒するのであれば、今後も英傑同士交流を維持して対処すべきだとは思うし、クラウスの手法は理解できる。
「たぶんセリーナも来るね」
「だろうな」
「……私は、ディアスが旅を始めた原因について聞いているけどさ。どうしても一つ疑問があるの」
「……セリーナのことか?」
問い掛けにエーナは小さく頷く。
「答えたくないのであれば別にいいけど……なぜセリーナは、ディアスを追い出すような行動を? そりが合わなかったという理由はなんとなくわかるけど……」
「最初に、俺は別に何とも思っていないよ。ただ、他ならぬセリーナの方が……」
「何が、あるの?」
問い掛けに俺は沈黙する。エーナは言葉を待つ構えであり……少しして、こちらが口を開いた。