表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
181/487

伝説

 博物館にはエーナが身分証を提示してあっさりと入ることができた……室内は魔法によって空調管理などが成され、魔法の明かりによって非常に明るい空間だった。そうした中で展示物を見ることになったのだが……館内は、俺にとって宝の山だった。


 それは金になるとかそういう意味ではない。俺が生まれるより前に存在していた冒険者達……彼らが所持していた武具などが展示され、偉大な先輩の戦いぶりを垣間見ることができて、少し興奮した。


「こういうのに興味を示すってことは、俺は根っからの冒険者なんだな」


 と、改めて口にするとエーナの方は「何を今更」と応じた。


「そりゃあ戦士団に所属し、時折冒険者として活動していたディアスにとっては、伝説の冒険者なんて耳にたこができるほど聞いたでしょ?」

「ああ、そうだな」


 ――例えば、今目に映しているのは剣。緑色の刀身を持つ変わった剣で、これはとある男性冒険者が愛用していた……精霊を宿していた物であり、彼が存命当時人間界で暴れ回っていた魔族を打倒した一品だ。

 その冒険者の戦いは本にもなっていて、戦士団に所属してから先輩の薦めで読んだ憶えがある。内容が面白かったので、他の冒険者とか戦士の話はないのかと、色々調べ回ったのを思い出す。


 現在目の前にある剣は既に精霊は存在せず、緑色の刃を魔法の明かりによって照らされている……本で読んだことのある話に使われた物が目の前にある、と考えれば興奮するのも当然だろう。


「ねえ」


 ふいに、エーナが小声で(施設内は静かなので)問い掛けてくる。


「ディアスは寄贈とかしない?」

「……寄贈?」

「魔王を倒した英雄が持っていた物、とかだったら展示してくれると思うし。ほら、伝説的な人が残した物と並べるというのはワクワクしてこない?」


 ……よくよく考えれば、俺は魔王と戦って倒している。もちろん一人の力ではないが、それでも偉業であるのは間違いなく、この博物館に何かしら展示される可能性はあるかもしれない。


「そういうエーナはどうなんだ?」

「私?」

「というより、こうした剣と共に並べられるにふさわしいのは『六大英傑』と呼ばれ、魔王と戦ったエーナの槍とかの方が合っているんじゃないか?」

「……うーん……」


 考えていなかったらしい。自分のことを考慮に入れていないとは……。


「むしろ、この博物館から寄贈とか言われなかったのか? 俺はともかくエーナは居場所もわかっているだろうし、交渉しに来るだろ」

「いや、それは……ん、あー、そういえば何か博物館の人が会いたいと言ってきたこと、あったなあ」

「やっぱりあるんじゃないか。で、どうしたんだ?」

「忙しいって言って追い返した」

「おいおい……」


 まあ別に、博物館側も今すぐじゃなくていいだろうって解釈で、暇そうなタイミングで改めて話を持ち込んでくるだろう。


「それに、さ」


 と、エーナは展示物を見据えながら告げる。


「私の槍はまだまだ現役だし」

「俺の装備も一緒だな……ふむ、もし旅の果てに必要なくなったらここを訪ねてもいいかな」

「お、寄贈するんだ?」

「あくまで可能性の話だぞ」


 と、俺はここで人だかりを見つける。どうやら他の展示物と比べてずいぶんと大きなスペースをとっている……目玉の展示かな?


「何があるんだろう?」

「ディアス、行ってみよう」


 そちらへ足を向け……やがて人だかりの隙間から見えた物に、俺は吹き出しそうになった。

 それはどうやらエーナも同じであり……やがて近づくと、はっきりと視界に捉えた。展示物の横には看板が置かれており、はっきりと魔王との戦いに使われた武具を明記されていた。


 それはボロボロになった鎧……なのだが、見覚えのあるデザインに対し俺は、

「これ、クラウスが着てた鎧だよな?」

「そうだね。この博物館は国のお金も入っているし、その関係でここに展示されているのかな」


 ――魔王との決戦の際、騎士クラウスが着ていた鎧。現役の英傑……しかも魔王に挑み倒した者の鎧とくれば、人だかりができて当然だ。

 ただ、知り合いが所持していた物だからこそ、俺は一つ感想を抱く。


「……なんというか、変な気分だな」

「うん、私も同感」


 もし俺が所持していた物が展示されるとしたら……クラウスの鎧を見ても変な感覚に陥ったのだから、それが自分のであったなら――


「……とりあえず、寄贈するにしてももう少し年月経ってからかな」

「そうだね……私はこの町の住人だし、槍以外の何かだったら提供できるかなー、とか一瞬考えたけど……なんだか、恥ずかしい」


 うん、その感情はわかる……もう一度クラウスが着ていた鎧を見てからエーナへ視線を送ると、どちらともなく口の端を歪ませて笑った。

 とはいえ――ボロボロとなった鎧は、展示されるべき物なのは間違いなく……色々な形で、魔王との戦いは伝説となって語られていくのだろうと俺は思った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ