事件の終わりと報告
――ギルド本部襲撃から始まった大騒動は町はおろか騎士団出動という国すら巻き込みながらどうにか終結した。結果的に冒険者ギルドの副会長とザバルドという魔族が結託していたという事実が判明し、国は調査を開始した。
王都を襲撃した魔族に加え、人間と手を組んでいた魔族。さらには反魔王同盟……魔王との戦いが終了したが、新たな勢力が人間界に干渉してきているという事実を国は重く見た……実害が出ているので当然の話だが。
相当なリソースを投入する、といったことを冒険者ギルドにおいて個人で調べたレベルでもわかったので、これ以上首を突っ込む必要はないかな、などと思ったりした。もし戦力が必要ならば改めて俺に依頼が来るだろう……根無し草である俺ではなく戦士団に仕事を頼むかもしれないけど、ひとまず心構えはしておくことにする。
そして、事の顛末について……それを教えてもらうべく、エーナから来てもいいと連絡が入ったので執務室を訪れたら……相変わらず疲労顔の彼女の姿を見て、俺はため息をついた。
「大丈夫なのか……?」
「まあ、なんとか」
「正直、地底の奥底で槍を振っている時の方が生き生きとしていたぞ」
「それは認める……それで、だけど」
「ああ。ただ当事者とはいっても、一介の冒険者に伝えられる情報には限度があるだろ? その範囲でいい」
「わかった……副会長の家をより詳しく精査した結果、魔族ザバルドとやりとりをしていた手紙が見つかった。加え、他の名前は一切出てこなかった」
「ということは結びつきがあったのはザバルドだけ、と」
「そうだね。これで副会長については終了。動機は……まあどうでもいいか」
「そうだな」
その辺りは別に興味もない……と思いつつエーナの言葉を聞き続ける。
「魔族ザバルドについては……人間界で知れる情報には限度があるし、ミリアさんから聞いた情報が一番詳しかったくらい」
「役だったのなら何よりだけど」
いつのまにか話をしていたらしい……ギルド側としては当然か。友好的な魔族がいるのなら、情報を求めるよな。
「正直、魔族については手詰まり感が強いね。反魔王同盟ということについても……地底の拠点から押収した資料からも名前は書かれていなかった」
「あえて名前を書いていないのか?」
「そうだね。個人名が入る場所には帽子の青、とか時計の黒、とかそんなコードネームみたいな書かれ方をしていた」
人間の手に渡る可能性を危惧した……? いや、違うな。反魔王同盟という、言わば魔王を支持する魔族からすれば目の敵にされそうな輩だ。つまり同じ魔族から情報が漏れることを警戒したのかもしれない。
「よって、他にどういった魔族がいるのかも不明。ま、この辺りは人間界にいる魔族と話してみて調べていくしかない」
「そういう魔族に心当たりが?」
「まあ一応」
なるほど……反魔王同盟については要調査という結論か。
「技術については?」
「対抗策は既に国側が完了したよ」
「ずいぶんと早いな」
「それだけ国も警戒しているってこと」
……この技術を活かされてしまったら、大惨事になるためか。
「研究していた魔族ザバルドが滅んだ以上は、大丈夫だと思う……ただ、今後人間を脅かす技術を用いてくる可能性はある。よって、今後研究開発なんかも国は重点的に進めていくと思う」
「魔王を倒して戦いは終わり、と思っていたが実際はややこしいことになっているな」
「そうだね。魔王……絶対的な存在がいなくなったことで、魔界は荒れている。その余波で人間界も……」
「はた迷惑だな……そういえば、魔族ザバルドは大きいニュースがあると言っていたけど」
「うーん、そこはわからないんだよね」
……ザバルドが言っていたとおり、人間界で魔界の情報を得ることは難しい。今後、反魔王同盟と関わっていくとしたら、情報収集できる手段を探さないとまずいかもしれない。
「……時間は掛かるけど」
と、ここでミリアが口を開いた。
「叔父様と使い魔を用いて連絡をして……というやりとりはできるけど。もっとも、叔父様だって知っているかはわからない」
「そうだな……ミリア、俺がミリアと関わった結果、彼女の叔父……魔族オーベルクは国と接触したはずなんだけど、そこから経由して情報とかは来てないのか?」
「ギルド側には来てないね。ただザバルドの語った内容も報告しているし、既に国は連絡をとっているかも」
「そうか……個人的にやりとりするのは構わないだろうし、情報を持っている確認してみようか」
「わかったわ」
「もし良かったら、ギルド側にも教えて」
エーナの言葉にミリアは頷く……とりあえず、情報についても結論は出たようだった。