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槍と剣

 冒険者ギルド、その副会長であった存在は異形の悪魔へ姿を変え、襲い掛かってくる――その所業を施した魔族ザバルドは俺達のことを観察し、事の推移を見守る構えだった。

 そして悪魔が襲い掛かると共に、部屋の左右から魔物が出現する。おそらく拠点内に存在していた個体を結集させた……魔族ザバルドはどうやらここで戦い俺達を倒すつもりらしい。


「魔物はこちらが!」


 騎士が叫ぶ。途端、騎士やシュウラが率いる戦士達は横手から来る魔物に対し武器を構えた。

 そして悪魔そのものと相対するのはエーナとアルザ。加え俺とシュウラが援護に回り、ミリアもまた剣を構えつつ援護の体勢に入った。


 そして悪魔が拳を振りかざす。攻撃方法は徒手空拳のようだが、太い腕から繰り出される突きは、棍棒でも振りかざされるようだった。

 けれどエーナ達はそれを見極めてかわした。すると悪魔は即座に体をひねり拳を構える。その動きは体術を操る達人のそれ。当然副会長はこんな技術を持っているはずはなく、


「魔法か何かで、教えこんだということ……!?」


 エーナは驚愕しながらも槍による突きを放った。それは悪魔が次の攻撃を繰り出す前に直撃し――回転を伴った槍は悪魔の体勢を崩すことに成功。そこへ、アルザの斬撃が叩き込まれた。鎧の上からだが、衝撃はしかと入ったのか悪魔は後ろへ倒れていく。

 とはいえすぐ足で踏ん張り一歩後方へ退いた。動作は素早く、まさしく拳法の達人と戦っているような所作であり、


「――ミリア」


 俺は疑問を抱き名を呼んだ。


「あの魔族は剣術とか体術とか、そういう技術を保有しているのか? そうだったら教えたで終わりだが」

「私が知る限り持ってはいない……悪魔の動きから、どうやって体術を会得したのか疑問なのね?」

「――それについては」


 と、会話を聞いていた魔族ザバルドは口を開いた。


「大した話ではない。単純に体術を使いこなす人間から記憶を奪い取っただけだ」


 記憶……!? 驚愕する間に、ザバルドはさらに続ける。


「人間は魔族から見ればさしたる力……魔力を持たない生物だ。しかし、技術を用いて魔族に対抗してきた……圧倒的な力を前に幾度となく敗れてきた以上、その技術に目を向ける必要性があると感じ、ならばと拳法家を捕まえて記憶を抜き取ったわけだ」


 あっさりと語る内容に、俺達は絶句する。


「ああ、その人間は別に始末などしていない。そんなことをすれば徹底的に調査されて魔族がいるのでは、などと警戒されるからな……まあ、記憶を奪った反動で何かしら影響は出ているかもしれないが」


 ……そうやって、密かに色々と行動しているというわけか。俺はここで、バレないように行動する魔族の姿を想像し、


「魔族ともあろう存在が、人間を警戒してコソコソ行動していたというわけか?」

「ああ、その通りだ」


 嫌みのような言い回しをした俺に対し、魔族は不快な様子もなく応じた。


「少なくとも技術を完成させる……目処が立つまでは密かに行動した方がいいだろうと。コイツもそういう見解だったからな。まあ協力者として従ったまでだ」


 副会長であった異形へ視線を投げながら魔族ザバルドは言う……副会長はどういう考えで魔族と手を組んだのだろうか。今となってはその詳細が明らかにされることはないだろうが……少なくとも魔族からすれば「上手く利用してやった」といったところか。

 絶対的な力の差がある以上は、対等な関係ではない。副会長は魔族と手を組むことでギルド本部を攻撃したような存在を生み出すことはできたわけだが、それは最終的に魔族に奪われた……完全に搾取される側だった。


 そんな未来だって想定できたはずだが……俺は色々と考えつつも、


「そうか。どういうやり方にせよ、人間界に入り込み悪巧みするような輩は滅ぼさないといけないな」

「できるのか?」


 異形の悪魔が再び前に出る。エーナ達は武器を構え警戒し、その一方でシュウラは一歩後方に下がった。


「ディアスさん、二人の援護、お願いできますか?」

「ああ、構わない」

「それとミリアさんをお借りしても?」


 何をする気なのか……と疑問に思ったが、俺は察してミリアへ視線を向ける。


「いけるか?」

「何をするかわからないけれど……協力するわ」

「ありがとうございます。こちらへ」


 シュウラはミリアを手引きしてさらに後方へ。その時、悪魔がとうとうエーナ達へ踏み込んだ。

 そこで俺はアルザとエーナへ強化魔法を施した。途端、彼女達の動きが増して、悪魔が拳を振りかざすより先に槍と剣を叩き込んだ。


「ほう」


 そんな光景をどこか感心するようにザバルドは眺める。俺はここで周囲の状況を確認。左右では戦士や騎士が入り乱れて戦っている。とはいえ戦いはこちらの優位に進めており、援護の必要性はなさそう。

 ただし、彼らがこちらへ援護に来る可能性もない……すると魔族ザバルドは手をかざし、


「強化魔法か。それはかなり厄介だが……」


 魔族が手を振る。直後、悪魔の魔力が膨れ上がった。


「対抗はできる。さあ果たして、どこまで耐えられるかな?」

「……アルザ、いけるね?」

「うん」


 魔族が語る間にエーナ達は言葉を交わす。どうやら倒す算段を立てた……そして再び、悪魔と彼女達が激突した。


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