因果関係
アルザの剣と悪魔の防御……勝負は一瞬でついた。悪魔の腕を両断し体に叩き込んだ斬撃は、どうやら悪魔にとって致命的だったらしい……咆哮を上げる悪魔。同時、その体がゆっくりと倒れ伏した。
退魔の力を持つアルザが圧倒した形……俺は消えゆく悪魔に対し魔力を探ってみる。間違いなくギルド本部を襲撃した存在の魔力が存在しているが、それでもアルザは勝利した。
やがて悪魔の姿が完全に消えた時、魔物達もまた駆逐されようとしていた。シュウラが率いる戦士達が中心となって残る魔物を撃滅していく。そこへ騎士の加勢も加わることで撃破ペースは恐ろしいほど増し……そうした光景を見ていると、横にいるシュウラが俺へ向け一つ言及した。
「ギルド本部を攻撃した襲撃者についてですが、こうは考えられないでしょうか」
「何だ?」
「開発途中だったのか、それとも何かしら思惑があった実験作か……襲撃者をベースにして魔物に能力を付与したと最初私は考えていましたが、違うのかもしれません」
「俺も同じように考えていたが……なるほど、そうか。因果関係が逆なのか」
「その可能性が濃厚ですね」
俺達が戦った襲撃者は、目前にいる魔物や悪魔が持っていた力を結集して生み出された……ノルビア山などで戦った魔物が通常の強化版とするなら、襲撃者はさらに技術を発展させた存在であり、プロトタイプ的な存在だったのかもしれない。
「シュウラ、だとすると敵は……」
「元々、副会長と手を結んでいた魔族は人間から何かしら技術を得て魔物を強化していた。その最中、襲撃者のように極めて特殊な能力を持つ魔物を生み出すことに成功した。アルザの退魔が通用しなかったことを踏まえると、非常に危険な存在だと言えるでしょう」
「けれど現時点で同様の個体はいない……量産はまだできていない」
「ええ、今ならばまだ間に合う……もしああした魔物が今後魔族が率いる魔物のベースとなってしまったら、人間と魔族の戦いにおいて、私達が著しく劣勢に立たされることでしょう」
ある意味、俺達は重要な戦いをやっているわけだ。単に副会長を捕まえて魔族を倒すだけではない。この戦いには聖王国の未来が掛かっているかもしれない――
「終わったぞ」
戦士の一人が声を上げた。見れば、多数いた魔物が一体残らず駆逐された。
先ほどまであった戦闘音は消え失せ、ただひたすら荒涼とした地底を駆け抜ける風の音だけが聞こえてくる。俺はここで拠点へ視線を移した。外観から中を確認することはできない。けれど魔物や悪魔が消えたことで魔力を捉えやすくなった。
「……魔族がいるな。けれどもう一つ気配が――」
俺がそう呟いた直後だった。ゴアッ――形容するなら、そんな音と共に体全体を震わせるような魔力が……敵の拠点から、感じ取ることができた。
「何か、やったのか?」
俺はさらに呟きつつエーナへ視線を送る。彼女は俺達へ近づいた後、
「……予想以上に面倒なことが起きているみたい」
「魔族が罠でも仕掛けているか?」
「そのくらいだったら対処は難しくないんだけど」
エーナの言葉と共に再び拠点から魔力が。最初、俺はこちらを威嚇しているのだと思ったのだが……違う。拠点から魔力を発しているが、それは明らかに俺達を狙ったものではない。
誰もが無言となる中、声を上げたのはシュウラだった。
「魔力の流れからすると……魔族は副会長に魔法でも付与しているようですね」
それはつまり副会長を強化するために――それなら大した話ではないかもしれないが、エーナの表情は曇っている。
「……とにかく、先へ進もう」
彼女は告げ、ギルド職員と共に拠点へ歩み始める。詳細を語らない……その姿は、何が起こっているのか確信していながら、それをどこか信じていないようだった――
拠点へ入り込むと、そこは魔法の明かりで満たされ漆黒に慣れていた目ではとにかくまぶしい空間だった。
入口は開いており、ついでに言うなら拠点内に見張りなどはいない。俺達がここへ来たこと自体、魔族はわかっているはずだが……逃げようともせず、拠点の奥で何かをやっている。
ドクン、と鳴動するような魔力が進行方向から感じ取れる。どうやら作業中のようで、その重い魔力からロクでもないことをやっているのだと、嫌でも認識させられる。
そして肝心の副会長については――俺達は無言で進み続ける。やがて拠点の奥へ到達し……そこは、資料などが散らばった極めて雑多な広間。入口から見て奥側――そこに、当該の魔族がいて俺達へ背を向けていた。
こちらが臨戦態勢に入る中で、魔族は悠長に俺達へと向き直る。
「ここを見つけられたのは予想外だったな。おかげでこの拠点を手放さなければいけなくなった」
――魔族の姿は赤い髪の青年。耳にピアスなんかしており妖艶、という言葉が似合うような美形を持っている。
「とはいえ、作業は全て完了した……では早速始めるとしよう」
それはまるで、ここにいる俺達を使って実験でもしようという雰囲気だった。