魔法使い
「お久しぶりです、ディアスさん」
白いローブに青い髪。さらに鉄製の杖と俺と似通った格好の男性魔法使い……なのだが、容姿は決定的に違う。女性を魅了するような細目の美形……ただ、それはどこか棘を含んでいるようにも思える。
その顔には微笑を浮かべているのだが、なんだか心の内に策謀でも秘めているかのような……先ほどの声にしたって、猫なで声と表現するには至らないにしても、こちらに対し好意的な装いをしつつ、心の奥まで覗こうとするような雰囲気があった。
風貌に対し、まとう空気がどこまでも何かを隠しているような、秘めているような……そんな印象を与える男性。その名は、
「え……?」
ミリアが呟く。それもそのはずで、彼は――セリーナと並ぶ『六大英傑』の一人。情報を持つ彼女はすぐに察することができただろう。
「確認だが」
そして俺は、男性に問い掛ける。
「俺達が仕事をしていて、帰ってくるのを待っていた……で、いいんだよな? シュウラ」
「はい、その通りです」
満面の笑みを見せるシュウラ――シュウラ=アシュトー。異名は『策謀の魔眼』であり、まるで全てを見通すように計略を組み立て、魔族を出し抜いてきた作戦のスペシャリストである。
とはいえ決して作戦ばかりではない。その実力も相当なものであり、彼が所属する戦士団『黒の翼』において実力はトップで、団長補佐という立ち位置となっている。
「それで、何の用だ?」
俺はやれやれといった様子で彼へ問い掛ける。
「まさか会いにきただけじゃないだろ」
「そうですね……と、その前に」
シュウラは俺ではなくミリアへ目を向ける。
「ふむ、なるほどなるほど……」
「あの……?」
「ああ、すみません。初めて会う方は色々と確認したいのですよ」
と、シュウラは一言告げた後、
「ディアスさん、彼女は魔族ですね」
ピタリと言い当てられて、さしものミリアも硬直する。
「さすがにシュウラの目は誤魔化せないか」
「ディアスさんの魔法が掛かっているのでしたら、英傑クラスの人物くらいしか見破ることはできないでしょうが……」
「なぜ魔族を連れているのかは尋ねないのか?」
「それについては予測できますし」
予測? 問い掛けようとした矢先、シュウラは解説を始めた。
「戦士団を去ってからの足取りは失礼ながら調べさせて頂きました。冒険者ギルドを介していくつも仕事を受けたようで、その中でとりわけ大きなものは二つ。一つはダンジョン調査でもう一つが魔族討伐……魔族討伐の仕事の時点で彼女が同行していたのは既に調査済み。では一つ目のダンジョン調査……仕事を受けた時点では一人だったようなので、彼女がそれに同行したとは考えにくい」
つらつらと解説を進めるシュウラに、俺とミリアは黙り込むしかない。
「では、ダンジョン攻略の際に出会って共闘した? しかしそうであってもここまで共に行動する理由がない。考えられるとするなら、ダンジョンの主であった彼女に対しディアスさんが何かしらの提案をして一緒に旅をしている……というのが筋の通った考えかと」
そこでシュウラは微笑を浮かべる。
「ダンジョンについても、魔物は威嚇行動ばかりで襲ってこなかったそうですし、少なくとも人に危害を加える意思がなかったことが、同行する理由と考えてよさそうですね?」
「そこまで調査済みか……まったく、相変わらず興味を抱いたものについてずいぶんと執着するな」
「性分ですから」
「あの……執着って?」
ここでミリアから疑問。それに俺はやれやれと肩をすくめつつ、
「彼はほら、美形でモテそうだし実際に女性に言い寄られたりするけど、戦場とかで出会うと含みを持たせた笑みが怪しそうに見えるだろ?」
「ひどいですねえ……戦士団の同僚にもよく言われますが」
「自覚あるのかよ……まあいいや。とにかく、なんだかこっちのやっていることは全部お見通しですみたいな雰囲気を作ってはいるけど、実際は興味のあることに首を突っ込みたがる知識欲の塊ってだけでさ。それが高じて情報戦なんかで活躍したんだよ」
「色々な物事に首を突っ込み続けた挙げ句、独自の情報網を築くに至りました」
「な、ヤな奴だろ?」
同意を求めてみるが、ミリアは俺とシュウラを交互に見るだけで何も言葉を発しない。そんな態度に当のシュウラは
「ふむ、これ以上にない穏当な説明だと思いましたが」
「だからといって警戒は解かないだろ……で、ここで待っていた理由について、聞かせてもらえるのか?」
「ああ、はい。それはもちろん……とはいえ、本題に入る前に一つお伺いしたいことが」
そこでシュウラは――朝日が昇る中で、俺へと問い掛けた。
「彼女は敵意がない魔族のようですが……なぜ、共に旅をするのですか?」
――なんだか試しているような質問である。実際、ミリアは彼の言葉で緊張した面持ちになる。
とはいえ、俺は……硬質な雰囲気を作っているのもわざとなんだろうなと思い、これみよがしにため息をつきつつ、返答をした。