地底の魔物
さて、強化魔法も付与して完全に準備が整った後、俺達はいよいよ地底にある拠点へ向け動き出す。先陣を切るのはエーナ達ギルド職員と騎士達だ。
「ディアスとシュウラ達は、後からついてきて」
エーナの言葉に俺達は同意すると、エーナは一度地底へ目を向けた後、
「ここからは隠れながら密かに接近するということができない。よって、空中を移動して敵の拠点へ向かう。拠点周辺には魔物がいるから、遠距離から攻撃してその数を減らしていく」
彼女の作戦を聞き、騎士や戦士は小さく頷く。
「敵が迎撃態勢に入るまでに魔物を多く減らせば、魔族が逃げる可能性をなくせるはず……それじゃあ、行くよ!」
とうとう進軍を開始。魔法の明かりが地底を一際強く照らした直後、エーナが地を蹴った。
次いで彼女の足下に魔力の足場が……明かりによって照らされた範囲では、彼女の言うとおり地底へ繋がる巨大な穴……いや、地底に存在する巨大な渓谷と言うべきものが存在していた。俺達はその上から下へ落ちる形で突き進むことになる。
ギルド職員や騎士達が相次いで漆黒へと飛び込む中、俺達やシュウラを始めとした戦士達はそれに続く形で断崖絶壁に身を投げた。即座に足場を魔力で作りつつ……俺は地底の奥底に明瞭な気配を感じ取る。
「あれが目標か」
そう呟く間に騎士やエーナは当該の場所へ突き進んでいく……と、ここで騎士の一人が魔法を放った。それは多数の光の矢であり、シュウラほどではないが魔力も練り上げられたなかなか強力なものだ。
どうやら騎士は魔物を捉え、そこへ攻撃を仕掛けるらしい……単独ではなく複数の騎士が魔法を構築し、一斉に放った。それは俺達の移動速度を超えて魔物の群れへ飛来し――直後、轟音が地底内に生じた。
多数の光によって一瞬だが地底の状況が見られた。さすがに魔物で埋め尽くされているというわけではないが、それでも十二分に数が多い。そこへ騎士達が魔法を放って倒していく。
問題は魔物の能力だが……魔法の効果が終わり魔物の姿が見えなくなる。そこで俺は魔力を探ってみると……滅びていく魔物が何体もいるのがわかった。
「魔物の強度はそれなりか……」
「――副会長が放った襲撃者の情報は既に共有しています」
と、横にいたシュウラが俺へ解説した。
「おそらく地底にいる魔物達は、ノルビア山にいた魔物と同様にギルド本部を襲撃した存在と同一の特殊な力を持っているでしょう。しかし山で交戦した情報を共有したので、騎士達は魔物を屠るに十分な出力の魔法を構築したというわけです」
「であれば、この調子で魔法を繰り出せば――」
さらに騎士から魔法が放たれた。再び地底に光が生じ、明らかに魔物の数が減っていく。
うん、この調子なら対処はできそう――と、ここで一足先にエーナが底へ到達した。空中を移動し続けて拠点の真上にまで到達するという選択肢もあったはずだが、彼女はそうしなかった。原因は明白で、
「……何か、いるな」
俺は真正面に魔物とは異なる大きな気配を捉えた。明かりの範囲外であるため姿は見えないが……どうやら拠点の周辺にヤバそうな敵がいるようだ。それを警戒し交戦する前にある程度魔物を片付けておく……というのがエーナの算段なのだろうと俺は察した。
彼女の周囲には多数の魔物。ギルド職員が続いて地面を足に付けた時、戦闘が始まった。
「ふっ!」
彼女の槍が放たれ、周囲にいた魔物を数体まとめて吹き飛ばした。続けざまに周囲にいる職員から魔法が解き放たれて追い打ちを掛ける。
エーナの周囲にいる面々の魔法は強力であり、魔物達は一方的にやられていく……さらに騎士達も地に足を付けて剣を抜き魔物を倒し始めた。
そこからやや遅れて俺やシュウラも――と、地底に降り立ったと同時に俺は明かりを杖先に収束させ光量を上げる。
「そらっ!」
そして杖を勢いよく振った。それと共に光が真っ直ぐ拠点があると思しき場所へ突き進んでいく。攻撃ではないため、魔物達も完全にスルーし、真っ直ぐ狙いの場所まで到達した。
刹那、光が一際まばゆく輝いた。それと共に見えたのは、拠点の姿とそこにいる多大な魔力を保有する存在。
まず拠点だが……まるで砦のような外観をしていた。窓がないため外からは中の様子を窺い知ることはできない。
次いで魔力を保有する存在は……言い表すとすれば、筋骨隆々の体躯を持った悪魔だ。
「悪魔はおそらく、魔族の側近か何かでしょう」
俺の光によって敵の姿を捉えたか、シュウラが告げた。
「こちらに注意を向けているようですが、攻撃はしてこない。おそらく一定の距離近づいたら攻撃してくるタイプかと」
「魔力量から考えて、普通の騎士なんかでは荷が重いだろうな」
「私の出番?」
それはアルザの声だった。退魔の力……確かにそれであれば、悪魔相手にも十分だ。
「……どう立ち回るにせよ」
彼女の言葉には答えず、シュウラは視線を前に向けながら、
「私達が悪魔を倒す役目を担うのは間違いなさそうですね――」