地底への道
地底への道は入口から少し歩いた段階でも漆黒の暗闇が存在し、やや天井の高い洞窟といった感じだった。砂利を踏む音を耳にしつつ、俺達はひたすら進み続ける。
先ほどギルド職員がエーナに対し索敵結果を報告したのだが、それによれば間違いなく地底に魔族や副会長の気配があると。だが、その周辺には魔物もいるらしい。
「可能であれば奇襲をしたいところですが」
と、歩いているとシュウラが口を開いた。
「魔物がいることから、拠点となっている場所へ密かに入るというのは難しそうです。とはいえ、可能な限り接近して攻撃を仕掛ければ、相手が逃げるだけの余裕はなくせるでしょう」
「そうだね」
彼の指摘に対しエーナは小さく頷いて同意すると、
「索敵を行った結果、地底以外の場所に魔物などはいない……魔界に帰ればいいものを、わざわざこんなところに隠れていたのが運の尽きってことかな?」
「敵にとっては絶対の自信を持っていたんじゃないか?」
エーナの言及には、俺が応じる。
「さすがに地底奥深くまで調べることはないだろうと高をくくっていた。そもそも、国が管理していた場所ではあるが半ば放置されていたわけだし」
「ま、そうだね……ただこれ、言ってみれば魔族に舐められているってことだけど」
「国側も脇が甘いって話なんだろ。ま、ここについては報告してしっかり対応してもらえばいい。重要なのは今回のようなケースを繰り返さないことだ」
エーナやシュウラは俺の台詞に幾度が頷いた。
さて、会話の間にもひたすら進んでいく……と、真正面から地底を流れる風の音が聞こえてきた。どうやら開けた場所に出る……というかたぶん、断崖絶壁とかに辿り着いたかな?
「ストップ」
エーナが言う。そこで全員が立ち止まり、彼女は一度振り返る。
「ここから先は下へ進むことになる……けど当然道なんかない。事前に通達はしているはずだけど、念のために確認。全員魔力の足場を作成できたり、浮遊系の魔法を使えるね?」
――地底の奥底へ向かうわけだから、そこへ到達できなければ戦う資格はないというわけだ。全員が同意するように頷くと、エーナは近くにいる職員へ向け、
「ここでもう一度索敵を。地底へ向かうわけだけど、まだ距離はある?」
職員が調べ始める。その間に俺は味方の状況を確認する。魔法の明かりによって周囲は照らされており、表情を確認することは容易だった。
まずエーナを含めギルド職員達は全員表情厳しいまま作業をしている。そしてエーナ自身はしきりに地底へと視線を向けており、魔力を捕捉しようとしている。
次にシュウラ達『黒の翼』の面々について。彼らは現時点までエーナの先導に従って理路整然と動いている。なおかつ指示を待つ構えであり、統制はちゃんととれている。シュウラもまた落ち着いており、それでいていつでも戦えるという気概が見え隠れしている。
騎士についても落ち着いており、なおかつすぐに剣を抜けるよう臨戦態勢を維持している。ここへ来るまでに敵と遭遇することはなかったが、ここからはどうなるか……地底へ降りる際に魔物と交戦する可能性もあるし、それを予期しているのか表情を引き締めている。
最後にミリアとアルザについては、いつもと表情は変わらない。ただ魔法の明かりで照らされた範囲以外は漆黒が広がり、整備もされていない岩盤むき出しの通路を歩んでいるためか、アルザなんかはやや窮屈そうな顔つきをしていた。
「……大丈夫か?」
なんとなく尋ねてみると、アルザは俺へ顔を向け、
「うん、平気……だけど、狭いところはそんなに得意じゃないかな」
「単純に狭い場所が苦手ってことか?」
「こういう場所で戦ってあんまり良い思い出がないってだけ」
……彼女の戦い方を踏まえると、閉所における先頭は苦手ってことか。
「あ、それでもいつもと同じくらいのパフォーマンスは出せるから」
「ならいいけど……ミリアの方はどうだ?」
「私? 特に何も感じないけれど……あ、一つだけ」
と、彼女はエーナが立つ方向を見ながら告げる。
「少しだけ、魔族の気配を感じ取れるようになった。まだ距離があるし、魔法実験でもしているのかしら」
「実験……?」
「開発している魔法の試し打ちとか、そういうの。魔力を地底内に放出している理由がそれくらいしか思いつかないから」
「……魔法でも撃ってストレス解消、というわけじゃないだろうし理由はあるんだろうな」
実験か。副会長と共にここで何かやっているのか? それとも――
「結論が出た」
思案する間にエーナが口を開いた。
「私が立っている場所より前は断崖絶壁だけど、地底への大穴は左右に伸びている。で、私から見て左側に、目的の魔族と副会長がいる……距離はあるけど、ここにいる面々なら空中を移動すれば短時間で肉薄できるはず」
「ならまずは――」
俺の言葉にエーナは頷く……まずは強化魔法。というわけで、俺は杖をかざし味方へ強化魔法を施したのだった。