根深い話
町へ戻った俺達はエーナへ報告を行う。いつもの執務室で忙殺されている彼女と顔を合わせたのは俺とミリア、アルザにシュウラの四人。
「状況は?」
「シュウラには感謝しないといけないね」
俺の問い掛けに対し、エーナはそう応じた。
「索敵魔法の探査範囲を拡大して、地底奥深くに副会長の魔力を見つけた」
「間違いありませんね?」
確認のようなシュウラの問い掛けに対し、エーナは彼が何を言いたいのかわかったように、
「もちろん、本物かどうかは精査した結果。ただ、問題が一つあって、近くに明らかに大きな魔力が存在する」
その言葉に対し、俺は口元に手を当てつつ、
「それはおそらく、俺達が倒した魔族の主人といったところか?」
「魔力の量からして高位魔族なのは間違いないと思う」
「なるほど、本命である可能性は高いと。なら早速踏み込む……と言いたいところだが、問題は場所だな。地底の奥深くと言ったな?」
「うん。町から東に位置する山に、地底の裂け目みたいなものが存在する。その底にどうやら副会長はいるみたい」
「さすがに身一つで留まっているわけじゃないよな。拠点でもあるのか?」
「地底内の構造まではわからないからなんとも言えないけど……その可能性は高そう」
一時、部屋の中に沈黙が生じた。もし地底に副会長をかくまうような施設があるとしたなら、
「思った以上に根深い話ですね」
と、シュウラは俺達へ向け言及した。
「先にあった魔族による王都襲撃に加え、今回の騒動。まるで繋がっているようにも思えますが……いえ、先の戦いで首謀者である魔族は滅んでいる。因果関係はないと見るべきでしょうか?」
俺やアルザなんかは沈黙してしまうのだが、シュウラの考察に対し応じたのはエーナ。
「副会長をかくまっている魔族の詳細がわかれば、ある程度推理できるかもしれないね」
「そのためにはミリアさんの力が必要になりますね」
「……私は別に全ての魔族を知っているわけではないけれど?」
「しかし、あなたの素性を考えれば高位魔族については見覚えがあるかもしれません」
「かもしれないわね」
「どちらにせよ、踏み込まないといけないわけだ」
俺が結論を述べる……と、ここでシュウラへ首を向け、
「地底に何かしら建造物があるとしたら、敵は色々と準備をしていたことになる」
「地底に魔物を潜伏させておき、王都へ攻撃する際の奇襲部隊に……という可能性はありますね。先の王都襲撃も魔物を隠していたことを考えると、似たようなケースが色々と存在するのかもしれません」
「魔族は人間界でやりたい放題だな」
「まったくです。現在国側は魔族や魔物がいないのか調査をしているでしょうが、その範囲についても現状から改める必要性がありそうです」
肩をすくめながら話すシュウラ。そこで俺は、
「現時点での情報による考察で構わないんだが……今回の敵、魔族は何が狙いだと思う?」
「副会長が行動したことについて予定外だったのかはわかりませんが、もしもに備えていたのは確実でしょう。そこを踏まえるに、副会長を通じて得た技術などが目的だった……と、考えることもできますし、あるいはギルドの情報を得たかったのかもしれません」
「ふむ……エーナ、副会長が敵に回っているということは、当然冒険者ギルドで働いている人の情報や、冒険者に関する情報は敵に渡っていると考えていいのか?」
「敵の狙いが情報なら、そこは渡っていると思うよ。ただ、冒険者の方はプロフィールくらいで、保有している能力の詳細なんかはわからないと思うけど」
「人間に対する情報を得ているとなったら、情報源は一つだけじゃない可能性もあるよな」
「そうだね」
……ますます野放しにはできないな。
「うーん、敵の詳細がわからないからどうとも言えないけど……ミリア、今回の騒動を通じて魔界にギルドに関連する情報が共有されていると考えていいのか?」
「どうかしら。今回の騒動に加担している魔族の詳細が不明だからなんとも言えないけど……例えば魔王候補であったなら、他の候補を出し抜くために情報は秘匿するのではないかしら」
そう答えたミリアは腕組みをしつつ、
「魔王の配下であったならわざわざこんな騒動を引き起こす理由がない」
「魔王から指示を受けていたが、今回騒動に加担している魔族に鞍替えした可能性は?」
「ゼロではないけれど……うーん、元々魔王候補が間者として魔王の近くに送り込んでいたとか、色々考えられることはあるけれど……」
現状だと結論だ出せないか。まあ敵の詳細がわかっていないし仕方がない。
「ま、今回の魔族を倒し副会長を連れ戻すには地底へ向かうしかない……急がないといけないか?」
「準備はこちらでします」
と、シュウラは俺へ向け発言。
「ただ場所が場所です。なおかつ拠点があるということは相応に魔物がいる可能性もある。エーナ、国側の動きは?」
「居所は連絡済みで、既に準備を始めている。向こうも精鋭を用意するみたいだし、騎士と連携すれば……」
「わかりました……ディアスさん、確認ですがそちらも――」
「当然同行する。この辺りで決着をつけよう」
その言葉にアルザやミリアも同意するように深く頷くのだった。