厄介な敵
魔族が魔物と共に迫ってくる――のだが、最初と比べ魔物の数は激減しており、その突撃は俺達にとってさして怖くないものに変貌していた。
迫る魔物に対し、先陣を切って挑み掛かったのはアルザ。退魔の力が問題なく機能することで、彼女は接近してくる魔物を一蹴できる……斬撃によって、魔物があっさりと消滅していく。
それに続き『黒の翼』の戦士達が加勢し、いよいよ魔物の数が減り魔族は窮地に追いやられる。残る可能性は逃亡だが、シュウラが退路を断つ形で結界を生み出しているため、それもない。
「ここで仕留めましょう」
シュウラが言う。先ほど行った読心術で必要な情報は得た……そんな考えが表情から垣間見ることができる。
俺は戦士や仲間の状況を確認しつつ、再度強化魔法を付与するべきか思案したが……それよりも先に、とうとうアルザが魔族へと挑んだ。容赦のない斬撃に対し魔族は腕をかざし――結界を構築してひとまず防ぐ。
だが、それも悪手……退魔の力は魔物や魔族の魔力に反応するため、当然結界にも効果がある。刹那、アルザは剣に力を込め全身の魔力を高め――さらに斬撃を叩き込むと、結界はあっさりと破壊された。
魔族は驚愕し、どうにか逃れようとしたが……それよりも先にアルザが剣を魔族へ決める。
「あ――」
声を発する魔族。けれどそれは意味を成すことはなく……魔族は、消滅したのだった。
残る魔物も掃討を完了し、俺達は息をつく。奇襲は成功し、魔族が戸惑っている間に仕留めることができた……戦果は上々だし、シュウラによって情報を得ることもできた。
「もし今回交戦した魔族が指示を受けここにいたとしたら」
俺はシュウラへ口を開く。
「副会長を逃がした魔族……それは、高位魔族なのか?」
「わかりません。ただ、魔物……質の良い魔物が多数いたことを踏まえると、あれを生み出せる技術や能力を持っている存在であるのは間違いなく、厄介な敵であると言えるでしょう」
ここで俺はミリアへ顔を向ける。彼女の方は戦いの結果を受けて自分もやれると考えたか、表情は明るい。
「ミリア、先ほどの魔族について見覚えは?」
「あったら先に報告しているわ。見たこともないし、どういった魔族の手先なのかも不明ね」
「シュウラはここにいた魔族が陽動目的だと告げたが、本命の魔族がいるとしたらまだ人間界にいると思うか?」
「その可能性は高いように思えます」
「なら早急に探さないと」
「ええ、ですが副会長捜索と共に発見できるのではないでしょうか」
「それは……副会長と魔族が一緒に行動していると?」
「そうです」
「もしそうだったら話は早いけど……地上を索敵しても見つからないということは、最有力候補は地底?」
「そうなのではと考えているのですが」
口元に手を当ててシュウラは言う。
「ただ、地底に踏み込むにしても準備が必要ですね。今回ノルビア山を登りましたが、この場所は参道があることから人の手が入っているのは確かです。そうしたことによって探索を容易に済ませることができたわけですが……地底ではこう簡単にいきません」
「戦闘に備えて、今回以上に色々と用意しておきたいな」
――ミリアなどに施した準備については、敵が想定よりも弱かったことでまだ使っていない。もし高位魔族との戦いになれば、活用できるだろう……その時、戦士の一人が近寄ってきてシュウラへ何事か報告。そして彼は、
「ディアスさん、周辺調査は終わりました」
「魔物はゼロか?」
「この場にいた敵が全てのようです……早く副会長を見つけてこの事件に決着をつけましょう」
「ずいぶんと性急に動くつもりなんだな」
「はい」
「何か理由があるのか?」
「――先ほど交戦した魔物。特殊な能力が付与されていましたね」
「ああ。アルザの退魔の力は通用したから、ギルド本部を襲撃した敵とは大きく能力が違うみたいだけど」
「単独で動き、騒動を巻き起こした個体は、相当入念に調整された魔物、ということでしょう。反面、数は多く作り出すことは難しく、量産するには今回戦ったようにある程度力を抑えて生み出す必要がある」
「そうみたいだな」
「とはいえ、です。従来の魔物と比べ魔力を付与しただけで大きく強化できる……索敵魔法で捕捉しにくくなっている特性と合わせると、奇襲などを仕掛けるにしても非常に厄介ですね」
「……今回勝てたけど、今後こんな敵が出てきたら聖王国だって手を焼くだろう、ということか?」
俺の質問にシュウラは頷く――彼はこの戦いを通してありとあらゆるリスクを考慮し、どうすべきかを考えている。
「ええ、そうです。危険な芽は、早期に摘み取っておくに限ります」
シュウラの顔が怖くなる。彼がどこまで見通しているのか……ともあれ、俺としても放置しておくのはまずいという点は同意だ。よって、
「なら、一度町へ戻って副会長含め捜索だな」
「はい」
シュウラは表情を戻し……やがて戦士達へ撤収指示を出し、俺達はノルビア山を後にしたのだった。