魔物との攻防
俺の魔法についてもちゃんと魔物を倒すことに成功し、雷撃は貫通する効果によって複数体撃破した。魔物そのものはそれなりに質は高いにしろ、襲撃者ほどではない……いけると判断したか、シュウラは号令を発した。
「このまま突き進み魔族の下へ!」
同時、魔族は一歩だけ後方に下がった。さすがにこの状況では逃げる可能性が……と思った矢先のことだった。
「ふっ!」
シュウラが両腕を振る。身につけている腕輪から魔力が漏れると――魔族と魔物の背後に、壁のような結界が形成された。
「逃がしませんよ」
それは魔族の逃亡を防止するためのものだ。一方向だけを遮断する結界であるため強度もあり、魔族に対しても有効なはずだ。
途端、動きを読まれた魔族は大きくたじろいだ。そればかりでなく、魔物へ指示を出すこともままならない。
――その反応を見て俺は疑問を感じた。戦況的には俺達が申し分ない状況。かつ奇襲は成功し戦いを優位に進めているのは間違いない。
そうした状況下において魔族の反応は、ずいぶんと困惑した様子だ――やはり目の前にいる魔族が逃亡の手引きをしたとは思えない。
もしそうだとしたら、ここにいる魔族は……考える間にも戦況はさらに傾いていく。魔族はなおも魔物を差し向けこちらへ攻撃を仕掛けているが、もはや統制もとれていない状況。俺とシュウラの魔法を受けて魔物達は警戒を強めており、動き自体が鈍っている。
そこへアルザや戦士達の攻撃が入る……と、ここで俺はミリアへ注目した。彼女は今回、剣を携え魔物と相対している。その敵は骸骨騎士……アルザ達より遅れて交戦を開始し、まず彼女は魔物へ向け剣を放った。
その動きは洗練され、戦士というよりは騎士みたいな動き……魔王候補になったことを踏まえると、剣や魔法の教育を受けてきた……ということなのだろう。骸骨騎士は真正面から受けているわけだが、ミリアの攻勢にたじろぎ防戦一方という様子だった。
動きだけを見れば、さすがに達人とまではいかないにしろ剣士として十二分……ただ、動きや少し硬いかなと感じた。おそらくだがこれは実戦経験が少ないことに起因しているのかもしれない。教えられた剣術を駆使できてはいるけど、熟練度が足りない……そういうことなのかもしれない。
その辺り、経験を積ませれば剣士としても十分やっていけるのでは……と思う間にミリアの剣が骸骨騎士の首筋を捉えた。彼女の剣は一気に振り抜かれ、骸骨の首が飛ぶ。
それで魔物は倒れ伏し、消滅……息をつくミリア。そして視線に気付いたのかこちらへ目を向けた。
「立ち回れているかしら?」
「単独でこの場にいる手強い魔物を倒せているんだ。十分過ぎる戦果だよ」
――シュウラが率いる戦士であっても、二人一組になって交戦している人もいるくらいだ。普通の魔物と比べ特殊な力を持っている要因か、倒しにくいのは間違いない。とはいえ俺やアルザ、シュウラとしては問題ないし、他の戦士の中でも単独で戦える戦士は存在する。
ここで俺は周囲の状況を確認。魔物は大きく減り、魔族への道が開ける。アルザや戦斧を握る戦士が突撃できそうだが……魔族の周囲にはまだ魔物が残っているため、警戒して攻めはしない。退路も断っている以上、ここからはじっくり戦うという判断のようだ。
魔族はその意図を察したのか苦い顔をした……もしアルザなどが単独で仕掛ければ、何か反撃の用意があったのかもしれない――と、シュウラが再度光の矢を生み出した。その数を前にして魔族はとうとう、
「くそっ……!」
吐き捨てるように呟くと、両手をかざした。刹那、シュウラの魔法が放たれ魔族目がけて飛んでいく。
魔物は魔族を阻むように立ち……なおかつ、その魔物の目の前に結界らしきものが構成された。防御系の魔法らしいが――光の矢が着弾。轟音を上げて一時閃光が周囲を照らし……それが消えた先にあったのは、なおも健在な結界だ。
「ふむ、さすがに態勢を立て直しましたか」
シュウラが呟く……動揺していた魔族は彼の言葉通り態勢を立て直し、防御魔法を使えるまで精神状態が回復した。
「もう少し気が動転していれば、今の魔法で周囲にいた魔物も倒せたはずですが」
「……あまり戦闘慣れしていない様子だな」
俺の言及に対しシュウラは同意するように首肯し、
「奇襲に対する反撃の仕方が雑ですし、副会長を脱走させた魔族は別にいる可能性が高そうですね」
「シュウラもそう思うか……ま、いいや。とりあえず目の前の敵を倒すところからだけど……防御魔法はどうする?」
魔族はなおも結界を維持している。その間に内側にいる魔物達が陣形を組み始めた。その代わり、結界の外側に残っている魔物をアルザ達が倒していく。
「さすがに結界内に籠城されるのは面倒ですし、ここは一気に片を付けましょうか」
そう述べるシュウラは笑みを浮かべる……それを見ていた魔族は、嫌な予感でもしたのか俺達を見た。もしかすると怪しそうに笑うシュウラを見て、危機感でも抱いたのかもしれなかった。