剣と魔法
剣と魔法どちらに……こちらの質問に対し、ミリアは一度押し黙った。
「俺は強化魔法を軸にして戦うし、魔法主体だから後衛で間違いない。一方でアルザの方は当然ながら前衛だ。ミリアとしては……どういう風に戦いたいと望む?」
「意見を聞き入れてくれるの?」
「ああ、俺は場合によって強化魔法を使って前に出られるし、ミリアがどういう立ち位置を望んでもやりようはある……というわけで、ミリアの意向を聞こうかと」
「……そうね」
ミリアは腕を組んで考え始める。一方で俺はアルザへと目を向け、
「そちらは何か意見とかあるのか?」
「特にはないかな。私もミリアの意見に従うよ」
「あなたと肩を並べて戦うのは勇気がいるわね……」
と、ミリアは苦笑。けれどアルザの方はそう思っていないようで、
「まあまあ、そんな肩の力を入れなくても」
「アルザはそう思っているかもしれないけれど、英傑入りしていた人と一緒に戦うというのは、かなり大変そうよね。かといって」
と、ミリアは俺の方へ視線を向ける。
「ディアスと一緒に……というのも……」
「ふむ……なら、ミリアは前にも立てるし後方で支援もできるし……ということで、当面は立ち位置を変えて頑張ってみるか? で、しっくりくる方を選ぶか」
「私はそれでもいいけれど……ディアス達が大変じゃない? 私の役割に応じて立ち回り方を変えるのよね?」
「俺達は平気だし、フォローするから大丈夫だぞ」
「負担が掛からないの?」
「別に負担だとは思わないけどな」
俺のさっぱりとした口調に対しミリアはなんだか呆れたような顔をする。
「……一ついい? なぜ、そこまで気に掛けるのかしら?」
「単純にこれを機会に、と思っただけだ。何か裏があるというわけじゃない。魔族と戦って大丈夫なのか、と改めて確認したことをきっかけにしてこの辺りで色々と決めておこうかと考えたんだよ」
そこまで言うと俺は、小さく肩をすくめる。
「それに、ミリア自身は仲間である以上は頑張ろうとしているけど、俺達の能力的に役に立っているのか悩んでいる部分とかもあるんじゃないか?」
「否定はしないわ。そもそも英傑クラスの御仁に技術で張り合えるなんて、魔族でもごく一部だけよ」
……俺とアルザのスペックが高いが故の問題、というわけだ。
「そっちが悩むのは理解できる。ただ俺もアルザもミリアがどういう意見を述べても否定はしない。だから、ミリアが望むようにすればいい」
「そうそう」
同意するように幾度か頷くアルザ。そんな態度に対しミリアは、
「……二人は、それでいいの?」
「ミリアが気にするのは、これから魔族と戦いを繰り広げていくなら……自分のような存在は足手まといになるかもしれないし、場合によっては自分のせいで俺達が……というのを懸念しているんだろ?」
「ええ、そうね」
「そこについては冒険者……ひいては戦士団の不文律で説明できる」
「不文律?」
「戦士団に所属している人間なんかはこれを胸に戦ってた……例え何かあっても、誰かのせいにはしない。むしろ、何かあったとしたらそれはその場にいた全員が原因だと」
「それは……」
「戦士団、冒険者は共に魔物と戦う危険な仕事をやっている。その中で仲間内で険悪になってしまったらまずいということで、そういう不文律ができた。むしろ他人のせいにするような人間に背中は任せられない……ということで、どれだけ強くてもそういう人間とは組まないようにしていた」
「そうだね」
アルザも同意する。
「なんというか、生き残るための術という感じかな」
「そういう人間が混じれば生存率が下がるからな……だからミリア、気にしなくていい。魔族との戦いである以上、わずかなミスが命取りになる……という可能性もあるけど、本来はそんな危険な状況にならないよう立ち回るべきなんだよ。それに」
と、俺は肩をすくめ、
「魔王との戦いでも俺は色々と失敗しているし」
「そうなの?」
「誰にも言っていないような細かい失敗が色々と。でも勝負には勝った。魔王との戦いでもなんとかなったんだ。そう言われれば、ミリアとしては気が楽だろ?」
俺の言葉に対し、ミリアは再度苦笑したのだが……それはどういう形であれ励まそうとしていることがわかったためだろうか。
「わかった。そこまで言うなら、私もしたいようにするわ」
「うん、それがいい……で、どうする? 今はまだ決めず、ひとまず今回は様子見にするか?」
「そうね。正直、私自身もどちらが良いのかわかっていない面もあるし」
「なら、今回は俺の指示で動いてくれ」
「……大丈夫かしら?」
「今回はシュウラもいるし、問題ないさ……それに、敵が予想以上に強ければ、無理をせず退却するのも手だからな」
ノルビア山に副会長がいるとわかった時点で一度退いて国へ報告。そして部隊を編成して対応に当たる、とかでもいい。敵の居所さえわかれば……やりようはいくらでもある。
「よし、では改めて――今から準備を開始する」
そう言い、俺はミリア達へ向け杖をかざした。