連絡相手
ギルド本部を出た後、俺はすぐさまとある騎士団へ連絡を入れた。相手は事情を聞いて快諾し、すぐさまこちらへ来てくれる手はずとなった。
「ディアス、エーナさんが指定した戦士団だけど……」
「彼女としてもそれなりに付き合いが長い面々を……というわけだ。ま、報酬云々のことでも見知った仲だし無茶は言わないだろうという算段があってのことだろ」
ともあれ、今回の騒動で冒険者ギルドの家計はとんでもないことになりそうだけど。
「ノルビア山に俺達だけでいくのは危険すぎるし、これでいい。ひとまず俺達は明日に備えて準備をしよう」
――と、いうわけで買い物なんかをしていたのだが、昼を過ぎた時点でなんと魔法による連絡が入った。到着したらしい。
ずいぶんと早い――と思っていたのだが、相手としては冒険者ギルドで騒動が起きていることは認知していたはず。よって、もしかするとここへ来る予定だったのかもしれない。
というわけで、顔合わせのため向こうが指定してきた場所へ赴いてみると、
「よう」
「はい、どうも」
――その相手は『六大英傑』の一人、シュウラだった。つまりエーナは『黒の翼』に仕事を依頼した形だ。
「久しぶり……でもないか?」
「そうですね。しかしディアスさん、以前顔を合わせて以降もずいぶんと騒動に首を突っ込んでいるようで」
「アルザのことはシュウラに言われてだし、ニックのことは向こうから勝負をふっかけられたし、王都の戦いは国から緊急依頼だったし」
「ははは、まあそういうことにしておきましょう」
笑うシュウラに対し、隣にいるミリアはじっと彼を見据えている……で、ここでアルザの様子が変わっていた。なぜかミリアの背に隠れ、チラチラとシュウラを観察している。
「……どうしたんだ?」
「その……」
と、アルザはシュウラへ目を向けながら、
「いつも思うけど、視線が何を考えているのかわからなくて」
「……シュウラ、もしかして俺にアルザのことを頼んだのは、自分が行くとこういう態度を取られるとわかっていたから?」
「私は別に裏があるわけではないんですけどねえ」
いや、それは嘘だろ……と言いかけて口をつぐんだ。確かに怪しさ満点であるのだが、別に何から何まで謀略に関することではない……はずだ。
そんな俺の心境を読んでいるのか、シュウラは苦笑し、
「ディアスさんまで……」
「……ま、いいや。シュウラの怪しさは今に始まったことじゃないし」
そう結論を述べるとシュウラの後方にいた戦士の面々は笑った。
「それに、今回の仕事の内容を聞いて俺達に害するようなことはしないだろ」
「私をなんだと思っているんですか、まったく……話を戻しましょう。今回の依頼は冒険者ギルドからの要請、ということで良いですね?」
「ああ。俺はあくまで仲介役だ。エーナの方は戦士団に対し直通ルートの連絡手段がなかったからな」
「わかりました。それでどのような依頼なのかは……」
――今の段階で仕事の詳細は語っていない。冒険者ギルド襲撃のことであるとシュウラだって予想しているはずだが、ノルビア山の調査をする、という説明をする場合は副会長が逃げたことや、果ては圧力があるかもしれないという点まで話す必要があるため、仕事を正式に請けるまでは迂闊に喋れなかったためだ。
他にも、戦士団として来るメンバーが誰なのかというのも確認したかったし……今回シュウラと共に来た戦士は全員顔見知りではあるのだが、
「……シュウラ、今回の騒動どこまで把握している?」
ひとまずシュウラに尋ねてみた。すると、
「副会長が成した騒動であり、事件はひとまず解決。しかし、どうやら何者かの手引きによって逃げてしまった、くらいでしょうか」
「……その情報、まだ公になっていないよな?」
「知り合いの騎士から情報をもらいまして」
機密情報じゃないのかよ、と思ったが騎士としてはシュウラに話して首を突っ込んでもらった方がいいと解釈したのだろうか。
「つまりそれを踏まえた上で、ここに来たんだな?」
「正直、ディアスさんがいるとは思いませんでしたが」
「俺達のことは知らなかったのか?」
「さすがに現場にいるわけではありませんし、誰がどんな風に戦っているのかまではわかりませんよ」
それもそうか……やはりシュウラの情報網でも限界があるんだなと思った。
「で、私達の仕事は? 副会長の居所が判明したのですか?」
「正直不確定だ。場合によっては無駄足になる可能性もあるが」
「怪しい場所に赴くため、戦力が必要だったと。なるほど、騎士やギルドの正式な戦士だけでは手が足りないのですね」
「副会長の捜索に加えて何かあった時に備え防衛しないといけないからな」
「そうですね、理解できます……では詳しい話を聞きましょうか」
「わかった。まずは、そうだな……重い話になるし、ギルド本部へ行こう――」