戦力について
「……うーん……」
ギルド本部へ戻り、早速エーナへ森で得た情報を報告すると、当の彼女はうなり始めた。
「ノルビア山に? でもあそこは既に調査が完了しているんだよね?」
「考えられる可能性は二つだろ。一つは騎士達の調査で見つけられなかった。もう一つは――」
そこで言葉を止める。それに対しエーナの傍らにいるノナが、
「調査していない場所……あるいは、何かしら圧力が掛かって該当の場所を調べられなかった、ということですね」
「ノナ、そんな可能性あるのか?」
「ゼロではないと思います。ただもしそうであった場合、敵は調査を行う騎士達にも干渉できることになる……冒険者ギルドの副会長だけではない、城の上層にいる存在もまた関わっているかもしれない、などという疑惑が浮かび上がってくる」
わざと調査させないということだからな……もっとも、騎士達が見つけられなかったという可能性もあるので断定はできないのだが、
「……圧力があった、というのを前提にして動いた方がよさそうね」
エーナはため息を吐きながら俺達へ告げた。
「元々、私は疑問に感じていた……会長を追い落とすにしてもここまで大規模なことをするというのは……思い返すと、副会長は自分から会長に仕掛けるタイプじゃなくて、会長の不備をネチネチと追及するタイプだったし」
「嫌な人だな……まあ副会長のやり口はいいや。とにかく、今回の作戦は彼に似つかわしくないものだと」
「うん。誰かにたきつけられた……あるいは、もしバレても問題ない方策があるから、と考える方がしっくりくる」
「問題ない、というのが政治的に圧力を掛けられること、というわけか? だとするなら、会長を追い込むなんて色んな方法でやれそうだけど」
そこまで言った時、俺は口元に手を当てた。
「……何か別の狙いがあるのか?」
「そうかもしれない」
「どういうこと?」
アルザが首を傾げ問い掛けてきた。そこで俺は、
「ギルド本部の襲撃そのものは囮……というか、本来の目的を悟られないための何か、という可能性だ」
「今回の騒動そのものが?」
「ああ。だとすると事件の裏で何かやっていたことになるが……エーナ、その辺りどうなんだ?」
「手持ちの情報ではわからないし、調査するよ」
「わかった。それで俺達がやった索敵ではノルビア山以外に怪しい場所はなかった。どうする?」
「副会長がいる、という可能性を考慮に入れたら放置はできない。ディアス、動いてくれる?」
「ああ、もちろんだけど……俺達だけか?」
「もちろん相応の部隊を編成する」
部隊、と聞いて俺は心底面倒なことになってきたと感じた。ここまでの騒動だって相当厄介だ。何せギルド本部が襲撃されたのだから。でも、敵は襲撃者だけだったし、対処は決して難しくなかったが、人数を動員して動くとなったら――
「王都への攻撃から間もないのに、次々厄介な出来事が起こるな」
「まったくだね」
エーナは俺の呟きに賛同しつつ、
「ひとまず、大急ぎで準備を進めるよ」
「わかったが、敵の出方がわからない以上、ギルド本部だって守る必要があるぞ?」
「そこは私がなんとかする。一度町を離れた騎士達を呼び戻して……あ、でも副会長捜索のために騎士が動員するとしたら、あまり余裕はないのかな?」
人的なリソースも下手したら足らないなあ……俺は頭をかきつつ、
「なあエーナ、ノルビア山へ赴くにしても、時間は必要だな?」
「え? うん、部隊編成からだし……少なくとも数日は必要。もし山に副会長がいるのなら一刻の余裕もないけれど、だからといって準備もせず行くのは危険すぎる」
「そうだな。とはいえ、ギルド本部だってゴタゴタしているし、数日……といっているけど下手したらもっと時間が掛かる可能性があるだろ?」
俺の指摘に対し、エーナは押し黙る……というより、これは肯定の沈黙だ。
「なら、ギルドに所属する面々だけに頼るのはよそう」
「……冒険者を雇うってこと?」
「いや、さすがに見ず知らずの冒険者に頼むというのはリスクがある……というわけで、知り合いを呼んでいいか?」
「知り合い――?」
と呟いたところでエーナは理解したらしい。
「そっか、戦士団を……」
「ああ、そうだ。頼む戦士団に要望があれば言ってくれればいい。俺なら国と繋がっている戦士団とすぐに接触できるはずだ」
「仮に王都にいる戦士団に頼むとして……日数的には?」
「連絡は魔法ですぐにできる。この町まで人が来るのに……まあそうだな。場合によっては明日には到着するかもしれない」
「つまり、明日にでも山へ……わかった、それしかなさそうだね」
「出費がかさみますね」
ため息混じりにノナが言う。しかし、状況が状況であるため背に腹は代えられないと考えている様子だ。
「それじゃあ、早速連絡を入れる……戦士団に指定はあるか?」
「それなら――」
エーナは俺へ要望を告げる。それを聞いて俺は了承し……早速、仲間と共に動き始めた。