想定以上
エーナから指示を受けて、俺とアルザ、そしてミリアの三人は襲撃者と戦った森を訪れた。既に見張りの騎士などはいなくて、風が穏やかで葉擦れの音が心地よい。
ここに来た理由は二つ。まず襲撃者が他にいないかの確認ということで、一番疑うべき場所は元々襲撃者がいた場所の周辺であること。敵を倒すまで森の周辺を騎士達が固めて監視していたわけだが……その間に何か仕込みをしている可能性はゼロではない。
副会長の狙いから考えると、わざわざ証拠に残りそうなことをやっているとは考えにくいのだが、それでも調べてみる価値はある。そしてもう一つの理由は、長時間留まっているため襲撃者の魔力がまだ残っていること。
能力を精査した際に魔力に関するデータなどは把握済み。よってそうした資料を基に探査魔法をやってもいいのだが……今回、アルザが王都襲撃の魔族を捉えた時のように彼女に協力してもらう。よって、魔力が残っているこの場所を訪れたというわけだ。
「それじゃあ、始めるか」
戦闘から数日経過しているが、やはりまだ魔力は残っている……それを利用し、俺達は索敵を行う。
「アルザ、やり方は前と一緒だ。町の周辺だけでなく、可能な限り敵がいないかを調べてくれ」
「了解」
念のためミリアには周囲の警戒をお願いして……作業を開始する。魔法陣を描いて大地から魔力を引き出し、アルザへと収束させる。ちなみに今回の魔法は以前のものと比べて改良してあり、アルザの能力に合わせる形。これにより、索敵範囲が引き上がっているはずだ。
「どうだ? 何かわかることはあるか?」
「……うーん、森の中に結構襲撃者の魔力が滞留しているのはわかる。これは大丈夫なの?」
「肝心の本体が消滅しているし、放っておいてもあと数日で消えるとは思う。森への影響も……まあたぶん大丈夫だろ」
そう説明するとアルザはとりあえず納得したらしく「わかった」と答え、
「森の中や町の中……調べてみたけど、特に気配はないね」
「襲撃者と似通った魔力以外にも何かあるか? 副会長が手引きした存在と襲撃者とで関係がない可能性もある」
「裏で繋がっている以上、関係はあるんじゃないの?」
「そうとも限らない。元々副会長は襲撃者を作成できる技術を持っていて、それに目を付けて魔族が近寄ってきた……なんて可能性も考えられる」
「なるほど、ちょっと待って」
さらにアルザは丹念に調べていく。その間に俺は肉眼で森を見回してみるが、怪しいものは何もない。
「副会長に与する者がいたとしても、さすがにこの周辺にはいないだろうな」
「ええ、そうね」
ミリアもまた周囲に視線を巡らせながら同意した。
「ディアス、副会長から魔族にすり寄ったという可能性もあるわよね?」
「そうだな、ただその場合襲撃者は魔族を基にして作成をしたと考えられる……が、アルザの退魔の力が通用しなかったことを踏まえると、違うかもしれない。あるいは、何か他に別の理由が――」
そう言ったところでアルザが声を上げた。
「ディアス、怪しい場所を見つけたけど」
「ん、それはどういう意味合いで?」
「んー、なんだか魔力がわだかまっていて……その気配は襲撃者のものってわけじゃないけど。問題は場所なんだよね」
「場所? それはどこだ?」
「ノルビア山」
……俺達がエーナの依頼を受けて登った山じゃないか。
「そもそも、この町から結構距離があるけど……間違いないのか?」
「うん、大丈夫」
何てことのない表情でアルザは語る。魔法を改良した上で使ったのは間違いないが……ノルビア山まで気配を探知できるとなると、俺の想定以上に範囲が広がっているな。
「ただちょっと待て、あの場所は騎士達も調査して問題がないと判断したはずだ」
「うん、私もそれを知っているから疑問なんだけど……」
「探したりなかったか、あるいは何かあったのか……ふむ、今回の事件と関係があるのかもわからないが……他に怪しい場所は?」
「特にないかなあ……山まで探知範囲が広がっているから、別の方角でも調べているけど……ダンジョンの気配とかもない」
この町からノルビア山の距離を頭の中に浮かべ、その距離を割り出しつつ、
「副会長が捕まっていた場所とかの情報はエーナから聞いていたんだけど、探索範囲に入っているな」
「少なくとも町の周辺とかにはいないのかな?」
「気配を隠蔽している可能性もあるけど……うーん、そこが怪しいとなったら調べないわけにはいかないか?」
事件と関係あるかわからないが、怪しい場所であるなら放置はできないな……。
「他に怪しい場所は?」
「特になし。加えて襲撃者の気配もゼロ」
「わかった。とりあえずエーナへ報告しに行こうか」
俺は魔法を解除。ここでミリアに視線を合わせ、
「もし魔族との戦いの場合……正体がわかったら情報をくれるか?」
「ええ、問題ないわ。けれど、もし魔族が関連していたら……王都襲撃を行った存在と何か関係があるのかしら?」
「現在のところは不明だけど……首を傾げるのは事実だよな」
そんなやりとりをしつつ、俺達は森を出たのだった。