騒動の続き
エーナに呼ばれるわけでもなく今一度彼女がいる部屋へ向かう。報告を行った男性職員と入れ違いで部屋に戻ってきた俺達を見て、彼女はため息を吐いた。
「……ごめん、また手を貸してもらうかも」
「何が起こったか当ててやろうか?」
エーナは無言。よって、俺は推測を述べる。
「個人的に思っていたのは副会長について、襲撃者作成に協力者がいたなら……魔族もしくは魔の力を持っている存在が背後にいる。そうした人物が手引きして、副会長は逃走した」
「逃走っていうところは大正解」
エーナは答えながらもう一度ため息を吐いた。
「誰が手引きしたのかはわからないけどね……会長もその状況は既に把握していて、私達は副会長を再度捕らえるべく動けと」
「まあ当然だな。で、騎士とかの協力はなしなのか?」
「脱走したのは国管轄の場所だったから、率先して騎士達は動くと思う。ただどれだけ動員するのか……相手が相手だから警備も相応に厳重だったはずで、明確な失態だから駐屯地とかから人は来ると思うけど」
「手引きした存在は相当手練れかもしれないし、な」
エーナは頷く。さて、どうすべきか。
「ちなみに副会長の居所はわかっているのか?」
「現時点では不明だけど、いくらでも調べられる」
魔力を探知して探し出すというわけだな。ただ、
「問題は相手もそれをわかっているはずだ」
「うん。よって考えられる可能性は二つ。バレても問題ないような場所に逃げているか、あるいは副会長の魔力そのものを変えられる方法があって、こちらの捜索をかわせるようになっている」
「前者の場合はそれこそ魔界にでも入り込んでいる可能性を考慮しないといけないか。そして後者の場合だけど」
「何かしら魔法なり道具なり使えば、やりようはあるね」
ミリアが魔族であることをバレないようにするための魔法みたいに、だな……俺はさらに一考し、
「現状、既に動いているのか?」
「ギルド側は動いている。国側は混乱があるみたいだけど、今日中には動き始めると思う」
……とはいえ、現状副会長は既に逃亡している。これを見つけるのは難しいだろうな。
「ギルドとして、探索するための魔法は準備をしているけど……」
「それをやってどういう反応になるか……だな」
頷いたエーナの表情は険しい。なおかつ、今後のことを憂うような気配もある。
「……さすがに、副会長が復讐のためにここへ舞い戻ってきたりはしないだろ」
そう俺は口を開く。
「逃亡してしまったのは失態だし、捜索するのにかなりリソースを投入する必要はあるが……さすがにギルド本部へ攻撃とかはないんじゃないか?」
「まあ、ね。せっかく逃げたのにここへ戻ってくるなんて愚を犯すとは考えにくいし」
そう述べた後、エーナは椅子の背もたれに体重を預けた。
「とにかく、見つかることを祈るしかないか」
「エーナはどうするんだ?」
「私はさすがに待機するしかないよ。捜索隊に加わるといったこともない。襲撃者討伐については率先して関わったし、何かやれることがないか考えているけど、仕事も溜まっているし」
これ以上仕事を放置していると、ギルド運営に支障が出てくるというわけだ。
「わかった……なら俺達はどうする?」
問い掛けにエーナは押し黙った。次いでこちらをじっと見据える。
「……確認だけど、付き合ってくれるの?」
「作戦に関わった以上は、結末までは見たいという気持ちもある。もちろん逃亡している以上は長丁場の仕事になる可能性も考慮している。俺がやっている自分探しの旅、というのも当面はできなくなるかもしれない……が」
俺はここで肩をすくめた。
「さすがにこれだけの騒動を放置して、というのは俺としても寝覚めが悪いからな」
「……そっか」
エーナは幾度か頷いた後、
「なら、協力して欲しい。もちろん、報酬は相応に出すから」
「その保証さえあれば俺達は問題ない……ミリアとアルザも、それでいいよな?」
「ええ」
「もちろん」
相次いでミリア達は答え、俺は改めてエーナへ話し掛ける。
「それで、だ。俺達が何をすればいいんだ? さすがに俺の力で捜索するにしても限界があるぞ」
「さすがにディアス達に副会長捜索を頼もうというわけじゃない。そもそも、面識もないわけだし探せないでしょ?」
「ああ、そうだな」
「だから捜索については任せて。ディアス達にやってもらいたいこととしては、襲撃者についてかな」
「襲撃者?」
「今回副会長が逃亡したことで、少なくとも何者かが味方についているとわかった。その相手が魔族であったなら、襲撃者のような存在が姿を現さないとも限らない」
「それがいないか確認すると」
「ギルド側でそちらも調べられればいいんだけど、ゴタゴタしていて手が回らない可能性もあるし」
「ああ、そのくらいなら大丈夫だ。王都を襲撃した魔族も俺とアルザで見つけ出せたくらいだからな。確認はしよう」
こちらの言葉に「お願い」とエーナは言う。かくして、騒動はまだ終結せず……新たな戦いが始まった。