敵の誤算
襲撃者に対し調査が終わった後、俺達は敵を完膚なきまでに叩き潰した。身動きのとれない相手に対しては当然ながら一方的であり、抵抗もなく拍子抜けするほどにあっさり倒せた。
そして、ミリアが言及した魔力についてもエーナ達が調査を行い、浄化に成功。それは俺やミリアも協力し……全て終わった後、エーナは「ありがとう」と礼を述べた。
ひとまず当座の障害については解決した……残る問題はさらなる敵が出てくるのか、ということについてなのだが、そこはエーナは今後調査するとし、今回の戦いについて口を開いた。
「さすがに副会長と言えど、早朝から行動をするということはなかったみたいだね。ま、寝てるんでしょ」
「悠長だな……」
「そうだね。まあ、襲撃者の能力に対し相当な自信を持っていたんじゃない? 数日くらいは問題ないだろうと」
エーナはそう語った後、視線を俺へ向けた。
「誤算は間違いなくディアス達」
「……確かに、俺がいたから拘束して調査できたわけだからな」
ギルド側でも準備ができれば俺と同じようなことができたとは思うけど、それには時間が必要だった。よって準備が整う時点で襲撃者は消え去り証拠は隠滅……という結末になっていただろう。
つまり、俺達がここへ来なければ事件は迷宮入りしていた可能性が高い……副会長としては魔族の攻撃があって、それに乗じて策を実行したみたいだが、近くにいたからとエーナが俺達を呼び寄せたのが運の尽きだった……というより、エーナの引きが良かったと言うべきか。
「ただ、疑問もあるな」
森から出る途中、俺はエーナへ疑問を寄せる。
「副会長は俺達がギルド本部を訪れたことくらいは察しているはずだ。目的を遂行するなら俺達の存在は邪魔なはずだろ? わざわざ俺達がいるタイミングで攻撃した、というのは……」
「今のタイミングを見計らって準備していたのかもしれないし、あるいは今仕掛けなければいけない理由があったのかもしれない。どちらにせよ、検証する意味はないかなと思うよ。ま、とりあえず捕まえて無理矢理にでも喋ってもらえばいいよ」
そう語るエーナの目は怒りの色合いがはっきりと見て取れた。まあこれだけの騒動を引き起こしたのだ。ギルド本部だって相当破壊されているし、怒るのはむしろ当然か。
ここで俺は思考する……朝の内に戦いを済ませ証拠を得たことで、俺達は間違いなく先手を取った。副会長が次にどのような手を打ってくるのか不明だが、相手が何かをするより先にこちらが動ける状況になったのは間違いない。
エーナの様子ではギルド本部へ戻ったらすぐに動き出すだろうし、事件解決はもう目の前……だと思うのだが、
「なあ、エーナ」
「どうしたの?」
「これで事件は終了。副会長を捕まえて解決でいいんだよな?」
「うん、そのつもりだけど? ギルド本部へ戻ったらすぐに会長へ訴えるつもりだし」
「それなら大丈夫か……」
「そんなに神経質にならなくてもいいよ」
と、エーナは笑みを浮かべながら俺へと言った。
「さっさとこんな事件は終わらせて平和な日常に戻ろう。ただまあ、私にとって普通の日常というのは、忙殺される日々なんだけどね」
なんだか自虐的な言い回しをしつつ……エーナは楽観的に語ったのだった。
それから俺達はギルド本部へ戻り……俺やミリア、アルザは部外者でもあるため、ひとまず退散となり宿屋に戻った。早朝から戦ったけど体力的には余裕はあるし、アルザの方もまだまだ戦える感じだったので、別にベッドに入り寝直すようなこともなく、俺達はその日ゆっくりと過ごした。
で、ギルド本部内では色々ごたごたしたらしい……何気なく外から本部の様子を窺うと、忙しなく職員が動き回っている様子が見て取れた。仕事を手伝うわけにもいかないので俺はあくまで外野から眺めることしかできなかったのだが……副会長が犯人だったのだ。混乱は当然と言えるだろう。
で、肝心の副会長については……エーナが性急に動いたことで、どうやらあっさりと捕まえることができたらしい。俺としてはまだ事件が続く可能性も憂慮していたので拍子抜けではあったが、まあ俺達の存在によって副会長の思惑から外れてしまった、というのが答えで間違いなさそうだった。
捕まった、という情報を得て翌日くらいにエーナから「事の顛末については説明する」と言づてが来たので、俺達はひとまず待つことにする。ミリアやアルザには「自由にしていい」と言って、俺は冒険者ギルドで聖王国の情勢を調べることに。ちなみにミリア達は町中を歩き回り、何やら買い物をしていたみたいだが……詮索することはせず、俺は暗澹と情報を集める。
とはいっても魔族の王都襲撃以降は、ギルド本部への攻撃以外に何かあったというわけではなく……いや、ニックが新たなダンジョン攻略を開始した、という情報は得た。相変わらずのようだ。
他の英傑に関する情報とかは特になく……そうこうして数日経過した時、エーナから呼び出しが掛かって俺達三人はギルド本部へと向かったのだった。