槍の達人
ギルド本部を出た後は黙々と歩みを進め、俺達は森へと到達。速やかに準備を始めた。
俺達の周囲には複数のギルド職員がいて……ここで俺は強化魔法を使用。それは職員だけでなく仲間にも付与していく。
職員に付与する強化魔法は一度発動させたら下手に動かない限り発動し続けるので、拘束魔法が発動するまではアルザやエーナの援護に回る……そういう風に方針を決めた時、エーナが「ありがとう」と俺へ礼を述べた。
「ディアスがいると助かるよ」
「あまり過信しないでくれよ。それと、状況に応じて俺は立ち回る。強化魔法は効果が途切れたら再度使うようにはするけど……敵の動き方次第では使えない可能性もある。それは考慮に入れてくれ」
「わかった」
エーナとアルザが先導する形で森へと入る。途端、昨日交戦した際と同じように襲撃者から魔力を発せられているのを感じ取った。
「さて、二度目の戦いだが……あれだけ膨大な魔力を抱えている以上、敵は俺達の見分けくらいはついているはずだ……となるとアルザ達は一度戦ったことで、癖とかを見極められている可能性がある」
俺の言葉にアルザ達はわかっているという風に頷いた。うん、二人ともそれを考慮して立ち回る気らしい。問題はなさそうだな。
やがて俺達は襲撃者を目視できる所まで到達。敵側はまだ動いていないが……職員達が拘束魔法の準備を始める。そして俺は杖を構え臨戦態勢に入った。
その時、とうとう襲撃者が動き出した――森の中を疾駆し、俺達の所まで一気に迫る。それと共に、エーナは槍を構えアルザは剣に魔力を集める……アルザの方は退魔の力が通用しないことから普通に剣の威力を高めるだけの効果。彼女の大きな技が一つ使えない形だが……それでも怯むことはなかった。
エーナの方も森の中で戦う以上、リーチの長い槍では木々が邪魔して攻撃しにくいという問題がある……のだが、正直そこはあまり心配していない。彼女が紛れもなく槍の達人だ。すなわち、こんな状況下で戦う訓練はやっている。
襲撃者はこちらへ肉薄し……最初に狙ったのはエーナだった。かぎ爪が振り下ろされ彼女へ迫るが……すかさず槍を盾にしてけぎ爪を受けとめた。
金属音が鳴り響く。同時、エーナは即座に切り返すと襲撃者へ向け刺突を放った。それは圧倒的な魔力を抱え驚異的な身体能力を持つ襲撃者でも対応が一歩遅れるほどの……神速の領域に到達する一撃だった。
襲撃者右肩に、槍が入った。まずは挨拶代わりの一撃……途端、襲撃者は引き下がった。それと同時に魔力を高め、刺突を受けた部位に集中。結果、傷が塞がった。
「動きに支障を来すと判断した場合、再生能力が働くみたい」
そうエーナは考察した……痛みなどを感じている可能性は低い。ただ体の構造は人間と似せたものになっているはずで、槍を受けた部位が損傷しているとかぎ爪の動きに問題が出る……そう判断したのだろう。
状況把握も的確で、まさに隙のない敵……とはいえ、襲撃者は一度引き下がると様子見の構えを見せた。今の攻撃は警戒に値する……そういう評価のようだ。
つまり襲撃者はこちらの能力を見極め、このまま交戦したら負けると考えている……と、俺はここで杖を振った。そして魔法を発動させたが……直後、襲撃者の背後に魔力の壁が生じた。
「逃げることは許さないからな」
森の中を逃げ回る可能性を先読みして、俺は魔法を使用。実際本当にそうしたかは不明だが……襲撃者は一瞬だけ背後を見るような素振りを見せた。そしてエーナ達へ向き直り……前傾姿勢となった。
「退路はないと判断して向かってくるみたいだな。エーナ、いけそうか?」
「まあなんとか……けど、ずいぶん人間的な仕草をするんだね」
「制作者の意図としては、人間くさい様子を入れることで正体不明感を強くしたかったんじゃないか? 魔族とかだと誤認する可能性もあるし」
「なるほど、ね」
エーナが納得の声を上げた矢先、とうとう襲撃者が動いた。一瞬で間合いを詰めると、エーナへ向けかぎ爪を向ける。先ほどとの違いは、エーナへより接近していた。それこそ、懐へ飛び込みそうな勢いだ。
エーナはそれを槍で防いだのだが、先ほどのような反撃はできない。それもそのはずで、襲撃者が半ば強引に接近しているため、エーナが槍を振ろうにも確実に襲撃者の攻撃が早いためだ。
だからエーナは防戦の構えを見せ……襲撃者はここぞとばかりに攻め立てようとする……が、もちろんそれを阻む者が。アルザだ。
「はああっ!」
気合いと共に一閃された刃を、襲撃者はかぎ爪で防いだ。退魔の力が通用しない相手である以上、純粋な技術だけで戦う腹づもりのようだった。それに対し襲撃者は反撃しようとしたが……今度はエーナによる刺突。だがそれを敵は見極めかわした。
そこでエーナとアルザが同時に踏み込む。とはいえ目的はあくまで調査のための拘束。相手が消滅しないように加減をしているのは間違いなく……直後、二人の攻撃が襲撃者へと叩き込まれた。