重要な役割
俺はエーナの指示に従い、会話の後は素直に宿へと戻って休むことに――そして翌日、日の出直後くらいにエーナは俺達を執務室へと呼んで、ノナを交え話を始めた。
「さて、昨日得た襲撃者の情報から、特性などはつかんだけれど……最大の問題は、この事件の首謀者。つまり、ギルド本部を襲った理由などを探る必要性がある」
彼女は敵の正体について確信を抱いているが、相手が相手であるためここでは明かさない……俺とエーナとの間だけで話を留めておくことで、情報を秘匿する意味合いがあるのだろう。
「昨夜考え、襲撃者についてより精査し、犯人を見つけることにした。現在、そのために準備をして……ただ一つ問題が。さらなる調査を、という場合当然敵から情報を取るために拘束する必要がある」
「そこでディアスさんの出番というわけですか」
先読みするようにノナが口を開いた。
「強化魔法……調査の間、ディアスさんの魔法を利用して拘束魔法を維持する」
「正解。既に魔法そのものは完成して、すぐにでも動き出せる……研究部隊は徹夜でヒイヒイ言っているけど、襲撃者を放置すればどうなるかわからない。よって、ここで攻撃を仕掛ける」
……俺は彼女の思惑を克明に理解していた。現在は早朝なわけだが、副会長がこちらの行動に対する策を施す前に勝負を付けるつもりなのだ。
襲撃者そのものをどうにかするというより、本部に顔を出して色々妨害するとか、そういう可能性がある……現在の時刻では寝ている可能性も高く、だからこそ副会長が動き出すより先に手を打つ……そういう方針なわけだ。
表向きは被害が拡大しないように、という理由付けであり……ギルド本部が襲撃されたこともあるし、早急に倒さなければいけないとエーナが判断してもおかしくはない。
ひとまず職員に怪しまれるようなことはないだろう……と、ここでノナが一つ質問をした。
「最大の懸念は、戦っている間に別の襲撃者が現れる可能性ですね」
「そこについては騎士達に頑張ってもらうしかないかな。彼らの動向については既に確認していて、こちらが行動に移すということで見張りを交替させ、万全の状態にしている」
「わかりました。私はどうしますか?」
「ノナはギルド本部に残ってもらい、防備を整えておいて。最初の襲撃が昼間だった以上、いつ別の個体が来てもおかしくはないし、騎士達に任せきりというわけにはいかないから」
「はい」
返事の後、エーナは俺達へ視線を送り、
「今回は私も帯同する」
「拘束魔法を使うために、アルザと一緒に戦うのか?」
「そうだね」
「問題は連携がきちんととれるかだけど」
「まあ大丈夫でしょ」
楽観的に言うエーナ。本当だろうかと疑いの眼差しを向けた後、俺はアルザへ首を向け、
「そっちはどうだ?」
「なんとかなるんじゃないかな」
「二人って共闘の経験とかあったか?」
エーナとアルザはまったくの同時に首を傾げた。不安が残るけど……。
「今いる戦力で前衛を任せられるのは二人だけだからな。是が非でも連携してもらって、敵を食い止めてくれ」
「わかった」
軽い返事のアルザに苦笑しつつ……俺は次にミリアへ首を向ける。
「そしてミリアだけど……」
「あなたには重要な役割を」
と、エーナが言う。するとミリアは緊張した面持ちとなる。
「ミリアさんには、敵の挙動を観察して異変が起こったら教えて欲しい」
「……魔族である私なら、警戒できると?」
「魔族だからこそ、人にはない能力を持っているでしょ? 襲撃者は人の手によるものか魔族の手によるものか……まだ断定はできないけれど、今回の敵が魔に属する存在であるのは間違いない。よって、あなたなら異変を察知できると思う」
本当にできるのか……他ならぬミリアは不安を覚えているようだが、それに反しエーナはどこか確信しているように自信に満ちた顔をしていた。
二人は俺の知らないところで交流があったわけだが……その間にエーナは何かに気付いたのかもしれない。と、ここでミリアは俺を見た。
「それで、いいのかしら?」
「エーナの観察眼がそうやって言うんだ。何か確信してのこと……そうだな?」
「うん、もちろん」
こちらの問い掛けにエーナはすぐさま頷いた。
「大丈夫、私が保証するから」
「……わかったわ。内心疑問に思っているけど、頑張らせてもらう」
「よし、全員の役割も決まったことだし……早速、森へ向かうとしよう」
ずいぶんと性急ではあるし、時刻も早朝だが全員の顔はしっかりとしている。他ならぬエーナの方も問題ない様子だし、戦闘については大丈夫だろう。
後は作戦が成功するかどうか……こちらがエーナへ視線を送ると、彼女は頷き返した。心配するな――そんな意図だと思う。
俺はそれによって声を発することはなく……全員が揃って、部屋を出たのだった。